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フランス映画は、ほんとうに力がなくなってしまった。 面白い題材だと思うが、まったく充実しない映画である。 パリの16区、名も知らぬ男女が、週に一度か二度出会ってセックスをする。 そして別れていく。 個人的な事情は何も知らないままで、肉体関係だけが続いていく。 ある女性(ナタリー・バイ)が、新聞広告でセックスフレンドを募集した。 それにある男性(セルジ・ロペス)が応募し、二人の関係が始まる。 二人は喫茶店で落ち合い、近所のホテルに直行してセックスをして別れる。 それが半年くらい続くうち、女性は愛情を感じ結婚を申し出る。 しかし、どうしたわけか男性は、女性がこの結婚を心から望んでいるとは感じず、その申し出を拒否する。 それで何となく二人の関係がぎくしゃくし、やがて破局を迎える。
16区という設定や二人の風体は、それなりに裕福で知性もある人間と感じさせる。 女性のほうは離婚しており、年齢は40歳前後か。 男性の方が少し若いところだろう。 離婚し男性からの拘束が無くなり、しかもセックスの楽しみも知っている年齢の女性が、肉体関係を求めることは自然である。 恋愛からベッドへという流れなら、どこにでもある普通の話だが、この女性は精神的な恋愛関係ではなく、肉体的な関係だけを求めた。 それもあり得るだろう。 男性に対しては売春婦がいるが、女性に対して売春夫はいない。 女性が主導権を握りたいとすれば、この映画のようになるのも当然である。 この映画ではセックスが描かれない。 この主題であれば、セックスのシーンがもっともっと出てくるはずだし、肉体関係がどのように二人の精神を動かしていくかが描かれ当然だろう。 半年ほどして女性が愛情を感じ、男性に結婚を申し込むが、その心理的な変化が何も説明されていない。 何度もベッドを共にしていれば、肉体関係以外に言葉での関係も生じるのは判るが、この映画の主題はそこにはないはずで、肉体をして語らせなければおかしい。 映画は映像の表現なのだから、肉体的な充実感が精神を動かす過程を、映像として展開してくれなければ映画ではない。 肉体関係の充実を映像化することは、それほど難しいことではないはずで、わが国の多くの監督たちはすでにそれをなしている。 神代監督の一連の作品などをあげるまでもなく、東陽一監督の「サード」などでもそうした映像が撮られている。 肉体と精神の関係を描くことは、これからもなすべき作業だが、この映画は観念だけで滑ってしまっている。 わが国の監督たちは、現実を観念でとらえて論理的に構築するよりも、現実を直感的にとらえ感覚的に映像化することに長けている。 それにたいして、フランスの監督たちは観念での思考作業が延々と先行するのだろう。 だから、緻密な映画ができもするが、観念が現実に届かないと、まったく空論になってしまうのだろう。 それとも、フランスの監督たちは肉体は観念の支配下にあり、肉体が観念を動かすことはないと考えているのだろうか。 説明下手のわが国と、説明が延々と続くフランス論理の世界の違い、と言ったらいいのだろうか。 いずれにせよ、フランス人の観念がその切れ味を落とし、現実に届かなくなっていることは確かだろう。 映画のなかでの話、すでに何度も会っているのに、いつも男性が上になっていたらしく、今日は私が上になりたいと喫茶店で女性が言う。 しかも、女性が上になったら、きわめて充実したと、ことのあとで女性が言う。 二人の性的な関係は、肉体的な触れ合いを無意識に繰り返すうちに、自然と馴染むものだろうと思う。 女性が上になるのを、ノーマルなセックスと女性に言わせたり、上になって支配権を持ちたいといわせたりするのも、観念に溺れているとしか言いようがない。 フランス人だって色事の歴史は長いのだから、男女間の事実をもっときちんと拾うべきだ。 1999年のベルギー・フランス・ルクセンブルグ・スイス合作の映画。 | ||||||
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