タクミシネマ        グリーンマイル

グリーン マイル    フランク・ダラボン監督

 現在106歳になるポールの回想から、物語り始まる。
時代は1935五年、ポール(トム・ハンクス)はジョージア州のコールド・マウンテン刑務所の主任看守だった。
彼の職場は、死刑囚が収容されているE棟である。
そこへ、黒人の大男ジョン(マイケル・クラーク・ダンカン)が収容されてくる。
彼は二人の少女を殺した容疑で死刑を言い渡された。
しかし、彼は超能力を持った男で、本当は殺された少女を救おうとしていた。
冤罪でつかまり、そのまま死刑になってしまったのだ。
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 ポールたち四人の看守は、死刑囚たちに安らかな日々と、慈悲の心をもって天国へいけるようにと、囚人たちには優しく接していた。
しかし、パーシー(ダグ・ハッチソン)という看守だけは、受刑者を虐めるのが好きで、仲間とも何かと諍いをおこしていた。
また、刑務所を住処にしたネズミと仲良くなるデル(マイケル・ジェター)、どうにも手のつけられない凶悪なウォートン(サム・ロックウェル)など、死刑囚にも性格はさまざまある。
そうした人間模様を絡め、ジョンの冤罪を解き明かしながら、動き出した制度のなかで死刑に処せられていく悲劇をつうじて、神や生命について描いている。

 真相はウォートンが殺した少女を、ジョンは助けようとしたのだが、彼の超能力でも及ばなかったというのである。
少女を誘い出すときのウォートンの台詞が、姉妹愛を利用したものだった。
愛情を利用した殺人だ、とジョンは怒るのである。
愛情という名のもとによって世界中で殺されていると、死刑執行の時にジョンは嘆く。
そして、この映画の最も大きな主題は、無実どころか神の使いともいえるジョンを、職務上とはいえ死刑にしてしまったポールの悩みである。
彼はそのために、死ねない運命を背負わされる。
神と人間、生命への讃歌と、人間同士の愛情が語られる。

 現代社会への辛辣な批判はもちろん大切だが、もう批判の段階は過ぎている。
この映画の視点は、最近のアメリカ映画らしく批判という地平を、抜け出ようとしている。
それが神とか生命を見直させているのだろう。
それは判るのだが、ジョンの見せる奇蹟といった人力を越えたものを持ち込むと、近代を乗りこえるどころか、反対に近代の裏面にからめ取れてしまうように感じる。
人力を越えるものにすがるのは、ファッシズムに繋がるものだし、一種の宗教になってしまう。
超能力を持ち出すことなく、近代を越える道を捜すべきだろう。

 この映画で語られる生命観は、東洋的な輪廻感すらあり、とてもよく判る。
そこそこに面白い映画で、躊躇しながらも星を一つつける。
丁寧な物語の運び、きちんと細部にまで拘って造られたセット、忠実な時代考証など、見所の多い映画ではある。

 しかし、人物設定が善者と悪者の極端な対立で、あまりにも単純すぎる。
ジョンが神の使いだというのは良いとしても、ポールは善者の典型だし、パーシーとウォートンは悪者の典型である。
そして、脳腫瘍で苦しむ刑務所長の奥さんは、完璧な善者であるがゆえに、ジョンの奇蹟の対象になる。
人間は善でありかつ悪でもあるのだから、性格をこんなに単純化しては物語が平板になってしまう。

 善と悪の区別が恣意的で、表面的である。
もっと善とは何か、悪とは何かを掘り下げて、人間の原像に迫って欲しかった。
3時間を越える長い映画で、退屈になるほどではなかったが、やはり長い。
あと30分程度は切りつめたほうが良いように思う。
ライティングが眼球に反射して、不自然に見えた場面が気になった。

1999年のアメリカ映画。


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