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ボディ ショット    マイケル・クリストファー監督

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ボディ・ショット [DVD]
 ロス・アンジェルスでの話。若者たちが週末の楽しみを計画している。
今では一対一のデートは古くて、男女数人が出会うのが楽しいとか。
それから相対になって、より親密な関係へと発展するのが良いらしい。
男性はもちろん女性もセックスを渇望しており、セックスの相手を求めてクラブにくりだす。
この映画では男性四人、女性四人が出会う設定である。


 彼(女)等は、それぞれにカップルとなって楽しくやる。
駐車場でセックスしてしまうカップルがいるかと思えば、ボンデッジのSMに興じるカップルもいる。
ところが夜明けになってみると、一人の女性が強姦されたと訴える。
相手の男性は逮捕され、取り調べが始まる。
この映画は、相手が欲しくてたまらない孤独な現代人の心境をもとに、心は現実から遊離して限りない快楽を求め、それを支える肉体は現実にしか存在しない、といった乖離を描いている。

 強姦されたと訴える女性は、女優志望の可愛いタイプの女の子。
彼女は裕福な家庭の娘だが、アルコールにだらしなく今までにも飲み過ぎて記憶がないことが何度もある。
今回も飲み過ぎて、男性と過ごした部分の記憶がない。
気がついてみると、額に傷がありセックスをしたあとがある。
それで、強姦されたと騒ぎ立てた。男性のほうはフットボールの有名選手で、もっぱらの肉体派である。
クラブで些細なことから黒人と喧嘩となり、素手で殴り合って一対一の勝負に勝った。
そのあと二人は女性の家へとながれて、ベッドに入ったのだろう。
しかし、男性にも記憶がない。
それが和姦か強姦かになっていく。


 アメリカ映画のなかでは、セックスと愛情との繋がりは、ほんとうに薄くなった。
この映画では、女性たちがセックスと愛情を分けて考えている。
セックスすることによって発生する精神的な親密感を拒否してさえいると言っていい。
女性はちょっと気に入った相手と、気軽にセックスすることだけを求めてさえいる。
その先に愛情があれば、見つけものといったところだろうか。
それは避妊が手軽にできるようになったことと、女性が経済力を付けたことによる。
男性はやれれば良いといったところがあったから、昔から何も変わっていない。
むしろ女性が男性と同じになってきたのだ。

 しかし、愛情という観念を支えるのは肉体である。
どんなに飛躍した愛情を持っていても、肉体が消滅したら愛情という観念も同時に消滅する。
逆はあり得ない。情報社会になったので、観念が現実から切れて自由に飛翔するようになった。
誰でも愛情という観念を極度に拡張したがる。
また拡張できるように感じる。
危険な愛情は甘美だ。
しかし、肉体は現実そのものであり、愛情に従った行動の結果は肉体に降りかかってくる。
駐車場でセックスするのも、それを観念が追認していれば、まったく問題はない。
むしろスリルに満ちた楽しいことだ。


 強姦を決して肯定するものではないが、女性の台頭によって強姦という概念は消滅するのではないかと思う。
それは単なる暴力による傷害事件となるだろう。
いままで女性は非力だ弱者だという理由で、社会的に保護されてきた。
それが男女への二重規範として、女性抑圧ともいえる道徳だった。
しかし、女性を弱者と見なして女性を保護するのは、今やもちろん許されない。
女性は社会的な弱者ではない。女性は男性の保護下にいるのではない。
女性も男性と同質の人間であり、一人前の人格として認められるべきだ。
それはそのとうりだが、これは観念であり肉体が支える現実ではない。
女性の肉体は男性に比べて非力であることは変わらない。

 男女が互いに引かれ会い、セックスをしなければ種が絶えるとすれば、肉体という現実が観念を裏切ることはある。
工業社会までは、観念は現実と密着していたから、観念が現実に裏切られることは少なかった。
強姦は例外として刑罰の対象にすれば、ことはすんだ。
この映画のように、男女ともに記憶喪失下のセックスという事態に至っては、記憶という観念が失われているのだから、観念はそれを追認しようがない。

 自ら求めたことといえども、女性の台頭は女性に過酷な現実を体験させるだろう。
二重規範の保護を失った女性は、しばらく社会的な規範の確立をめざして格闘しなければならない。

1999年のアメリカ映画。

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