タクミシネマ        アナライズ・ミー

アナライズ ミー   ハロルド・ライミス監督

 マフィアのボスのポール(ロバート・デ・ニーロ)が神経症になってしまった。
人殺しなど何でもないと思っていた人間が、突然弱気になり、ここ2週間のあいだ心臓発作に襲われること数度。
病院で調べてもらうが、心臓には異常なし。
どうも神経症だ、つまり頭の病気で、カウンセリングを受けるのが良いと言われる。

 たまたま知り合った精神科医ベン(ビリー・クリスタル)こそ良い迷惑。
結婚直前の彼は、危険きわまる患者の我が侭に付き合わされて、デートには介入されるは結婚式はめちゃくちゃにされるで大混乱。
おまけにマフィアたちを追いかけるFBIには、捜査に協力しろと言われる。
盗聴器を体につけて、マフィアの情報を流せと言うわけだ。
しかも御用済みとなれば、また敵対するマフィアとの抗争に巻き込まれれば、彼はマフィアからも殺される状況に追い込まれた。

アナライズ・ミー [DVD]
 
前宣伝のビラから

 マフィアのボスでも複雑化した社会では、神経症になると言う設定が実に面白い。
マフィアとは男性原理だけで動いている社会で、男は強くなければならない、弱気になればたちまち他の男にその地位が奪われる。
女性はまったく無力で、男性の愛玩の対象でしかなく、反対に男性には常に緊張を強いられる社会である。
しかし、マフィアだって社会から孤立しているわけではない。
花粉症のヤクザがいるように、社会の複雑化は容赦なく襲ってくる。

 マフィアとかヤクザと言った組織は、農耕社会の縦型人間関係を基礎としている。
バラバラの個人が自立したものではなく、強い者と弱い者がはっきりと分かれており、弱い者は強い者の命令に従う。
強い者とは肉体的につまり武力が強いことを意味したのであり、それに頭脳が優秀であることも加わった長老支配が加味されたのが、マフィアやヤクザの世界なのだ。
しかし、情報社会化はマフィアの世界をも襲い、縦型人間関係を崩し始めて、個人としての自立を要求し始めている。
マフィアといえども、横型社会にならざるを得ないわけだ。
そのうえ外的な要因としても、チャイナ・マフィアの登場があり、ロシア・マフィアの登場がある。

 日本では、こうしたヤクザの体質変化は、すでに映画化されている。
「総長賭博」以前、以後と言われるように、旧来の義理人情路線のヤクザが、義理も人情もないと言った武闘派へと転換したときがそれだった。
もちろんわが国のヤクザ映画で親分が神経症と言った話題は登場しないが、より個人化が進んだ社会では充分にあり得る話である。
もっとも現実の話では、神経症になったマフィアのボスは、たちまち殺されてしまって、話題にも上らないだろうが。
それにわが国では個人化がまだ充分に開花していないので、「総長賭博」のような展開だった。

 この話題は映画だからの話だが、いや映画だからこそ描ける話である。
コミカルなタッチで描かれる画面は、シニカルな中にもなかなかに笑えて、良い映画に仕上がっていた。
ポールが言っていたフロイト批判は、実際そのとうりで、今やフロイトの論をまともに臨床に適用する医者など誰もいない。
そうでありながら、この映画がフロイトの展開した理論に基づいている。
つまり、幼児期の原体験がトラウマになっている、というのもおかしな構造だが。
フロイトの論に従って映画を作りながら、映画の中ではフロイト批判をするというのは、いかにフロイトの論が通俗化しているかである。

 幼児期の原体験がトラウマとなり、無意識の世界から何十年も経てその人を苦しめる、そんなことはあり得ないではないか。
トラウマ論は何となく各自に実感させるから、原体験の拘束性を信じたくなるが、ちょっと無理な話だろう。
そうした意味ではこの映画は、もともと不可能な立脚点から作られていると言える。
しかし、映画としては充分に楽しめる。

 精神科医のベンがサメの水槽に落とされるシーンや、困惑しながらもポールを患者にしていく展開、さいごのダンスのシーンが刑務所に入ったベンからの贈り物だとか、面白いシーンをたくさん持った映画である。
しかも、ロバート・デ・ニーロのマフィアにはまり役、達者なビリー・クリスタルの演技など、見所も充分にある。

1999年のアメリカ映画。


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