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アドレナリンドライブ    矢口史靖監督

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アドレナリンドライブ [DVD]

 「ひみつの花園」を撮った矢口史靖監督の次作が、この「アドレナリン・ドライブ」である。
コメディだという前宣伝だし、当然のこととして期待して見に行った。
しかし、面白い映画を作ることは、とても難しいのだと言うことを知って帰ってきた。
最大の失敗は、前作と違って、はっきりとした主題がないことである。

 ひょんなことから、暴力団の裏金2億円を手に入れた鈴木悟(安藤政信)と佐藤静子(石田ひかり)は、その金をそのまま着服する。
ところが、死んだと思っていた暴力団員が生きており、取り返しに追ってくる。
また、その子分達が別働隊とし、その金を追ってくる。追いつ追われつの道中を、映画は追っていく。 鈴木も佐藤も、それまでの仕事を辞め、逃走旅行に出る。
それを追う暴力団員達とのドタバタ・コメディなのだが、前作のテンポ、卓抜したアイディアなどが見られず、残念ながら平凡な作品になってしまった。
新品の救急車を川に沈めたり、バンを燃やしたり、明らかに前作よりお金がかかっている。
しかし、お金がかかっていると言うことは、口を出す人もそれだけ多くなっていると言うことなのだろうか。
彼には映画監督としての才能があるのに、映画を撮る以外の仕事が大きく彼にのしかかってきているのだろう。


 ドタバタ・コメディは、偶然、また偶然、奇想天外の展開で良いのだが、この映画はそれがない。
観客の想像を裏切り、想像もつかないストーリーになってこそ、ドタバタ・コメディなのに、きわめて常識的に展開してしまう。
面白かったのは、唯一、お金をコインランドリーで洗うところくらいである。 レンタカー屋に勤める鈴木と看護婦の佐藤と言う設定は良い。
しかし、鈴木とその上司が車にのっている最初のシーン、まずこれが長すぎる。
鈴木の性格描写だったにしても、もっと簡単に済ませるべきで、上司は後半には登場しないのだから、さらっと流して良いはずである。
佐藤の方は後半への繋ぎもあるから、この程度に描きこまないと判らないと思うが、引っ込み思案の前半から後半への変身が劇的ではない。

 大金を手に入れたから、暴力団に追われるのが主題ではない。
大金を手に入れたことによって、主人公の性格がどう変わるか、どう変わらないかが主題である。
お金が人間の心理に与える影響を、主題として追っていれば、こんなに散漫な映画にはならなかったと思う。

大金を手に入れて、今までと変わらない生活をすると佐藤に言わせる。
そのあとで、佐藤にお金を使わないのかと言わせ、多いに散財させる。
この変心は良い。
しかし、そうした心境の変化を、映像で追いかけて欲しい。
また、鈴木にお金があるのがいけないのだと言わせて、一度は2億円を焼失させながら、実はお金が浴槽に隠してあり、2人はそれを持ってドライブに出る最悪のエンディング。
ここでの、鈴木の心の動きが、全く描写されてない。
だいたいこの映画は恋愛ものではないだろう。

 生き返った暴力団員と看護婦の婦長をのぞいて、前作に比べて、全体に演技がされておらず、役者達が下手だった。
特にレストランのシーンなど、他の客がエキストラと見え見えで、とても演技されているとは言えず痛ましいほどだった。
これは監督の演技指導がないのか、ただ役者が下手なのか、台本をきちんと読んでないのか、理由はよく判らない。
不思議なことに矢口監督は、女性に演技させる方が上手いように感じた。
佐藤を演じた石田ひかりは、お金の上で寝転がるシーン、ベッドを飛び回るシーンと上手かったが、鈴木を演じた安藤政信は動きが鈍く、ミスキャストだと思う。
1999年日本映画。


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