タクミシネマ        シャッター・アイランド

8mm       ジョエル・シューマッハ監督

 莫大な資産を残して死んだ男の遺産の中に、一本の8ミリフィリムがあった。
しかもその中に写っているのは、若い女性がいたぶられながら殺されていくシーンだった。
不審に思った奥さんが、私立探偵のトム(ニコラス・ケージ)に調査を依頼する。

8mm [DVD]
劇場パンフレットから

 調査が進むにつれて判ってきたことは、裏ビデオ業界というのがあり、そこではありとあらゆる性的倒錯があり、殺人をも撮影することすらあった。
ハード・コアーは合法でも、子供を対象にしたものや殺人を撮影することはできない。
そのために、こうした市場が成立するのだと映画はいう。
死んだ富豪も、社会的には正しい顔を持っているが、歪んだ欲望の持ち主で、それを裏8ミリで満たしていたことが判る。
この殺人をおさめたフィルムに、彼は100万ドルを支払っていたのだった。

 この映画は、トムは鉄人ではなく、彼が調査をするにつれ、トム自身が倒錯の世界に引きずり込まれていくことを特徴とする。
映画ではそれをさかんに強調するのだが、それが良く判らないのだ。
調査が長引き、ロス・アンジェルスに住む奥さんのエイミー(キャサリン・キーナー)や子供と離ればなれになるが、自宅に帰るとトムは奥さんに助けてくれと泣きつくのである。
事件の追求に熱心なあまり、家庭を顧みないというなら判るが、事実、奥さんからはさかんにそれを攻められる。
自分が自分で調査をして、奥さんに助けてとはどういう心的構造なのだろうか。

 快感を得ることは観念の産物で、肉体を支配するのは観念なのだというのは判るにしても、その観念が拠り所をなくし、自意識が崩壊する。
そうした主張として、この映画を見ることはできない。
なぜなら、最後に、「マシーン」と名付けられたマスクの男(クリス・バウアー)の素顔を明かすが、それがごく普通の男性である。
しかも彼が、ナイフを被害者の体に突き刺して、死んでいく様がたまらない快感だというとき、それは現実ではないか。

 仮想の現実が意味のあるものだと言いながら、現実の現実が欲しいマシーンの行動。
ここには論理の一貫性がない。
しかも、話がすべて終わってから、トムのところへ殺されたアンの母親から、娘の消息を知らせてくれたことに対して感謝の手紙が来る。
生きているか死んでいるか判らないアンに対して、母親は一縷の望みを持っていた。
それが切り刻まれて殺されたという、残酷な事実を知らせたので、当初母親はトムに対して怒っていた。
しかしその手紙では、辛くとも事実を知らせてくれたことに感謝している。

 ここでますますこの映画の主張が判らなくなってくる。
悪人は全部死ぬし、片棒を担いだ富豪の奥さんも、事実を知って自殺する。
彼女の自殺は、勧善懲悪と言う意味では必要かも知れないが、この映画主張から意味がないように思う。
それと、トムと奥さんとの葛藤が、物語に組み込まれておらず、単に夫婦喧嘩のように見える。

 「セヴン」と同じアンドリュー・ケビン・ウォーカーが脚本を担当しているが、原作は一体だれが書いたのだろう。
また、カメラも似ていたが、暗いところがつぶれており、ちょっといただけなかった。

1999年のアメリカ映画。


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