タクミシネマ        私の愛情の対象

 私の愛情の対象   ニコラス・ハイトナー監督

 今のボーイフレンドであるヴィンス(ジョン・バンコウ)には不満がないけど、彼と一緒に生活するつもりはない。
ニーナ(ジェニファー・アニストン)は、そんなとき、気に入った男性ジョージ(ポール・ラッド)を見つけた。
彼は小学校の先生だが、ゲイで他の男性と一緒に住んでいる。しかし、同居している相手が、分かれたいらしい。するとジョージは行くところがなくなる。ニーナは気に入った男性と一緒に住みたい。自分のアパートの一室が空いている。彼女はジョージにそこに住んでも良いと言う。

 ニーナは肉体関係と精神的な繋がりを違う次元でとらえ、上手く生活が回り始めるかに見える。
ゲイとはいえ、ジョージは男性である。
まずヴィンスが嫉妬心を見せる。
しかしそんな時、ニーナはヴィンスの子供を妊娠したことが判る。
ヴィンスはジョージへの嫉妬も消えて大喜びだが、ニーナはヴィンスと住む気はない。
彼女はジョージに父親役を期待する。
ジョージはそれを拒否。
ニーナは仕方なしにヴィンスと暮らし始める。

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劇場パンフレットから

 ニーナとヴィンスの共同生活は、当然のことながら崩壊する。
ジョージはゲイのままでは一生子供が持てないことに気づき、ニーナとの共同生活を承諾する。
そこへポール(アモ・グリネロ)というジョージの恋人が誕生。
ジョージはニーナとの共同生活の場であるアパートに、ポールを連れてくる。
今度はニーナがそれに嫉妬。
ジョージはニーナを共同生活者と見ているが、ニーナは恋人と見始めていたのだった。
しかし、ジョージはニーナではなくポールを選ぶ。
やがて子供が産まれモリーと名付ける。
ニーナは母子家庭を決意する。
何年か後、モリーはジョージの学校に入って、学芸会で主役を演じる。
最後にモリーを真ん中にして、ニーナとジョージが歩いているところで映画は終わる。

 本当に大変な社会になっていく。
ゲイの誕生は、女性から男性の恋人を奪っていく。
愛情が精神的なものであることは事実だが、今までそれが物質的なと言うか経済的な背景に支えられてきた。
しかし、肉体労働から頭脳労働へと転換するに連れ、年齢秩序が崩壊し、精神的なものが裸で放り出されるようになった。
人間関係は対を単位せず、個人へとその規準を移し、家族は単家族へと収斂していく。
その時、誰でも孤独に見まわれる。

 今まで自然な男女の対が家族を支えてきた。
少なくとも、男女同数だから男女が対になることは、自然であるように見えた。
しかし、人間存在の基盤が個人になったとき、男女が対になる必然性を失った。
極めて個人的な恣意的とも言える嗜好によって人間が選択される。
それは人間的魅力が、経済力や社会的な地位ではなくなったことを意味する。
人間的な魅力とは一体何か。

 この映画でも、ポールのパトロンであるゲイの老演劇評論家(ナイジェル・ホーソーン)が、実に寂しそうな顔を見せる。
感謝祭の晩、ニーナのアパートでジョージ、ポール、老演劇評論家の四人で食事をする。
その席で老演劇評論家がニーナにストレートは君だけだ、独り身というのは孤独だよと言うが、それが恐ろしいくらいに伝わってきた。
ゲイもストレートも孤独なのだ。
それは今まで、人間関係の本質が表面化しなかったから判らなかっただけで、今後は誰でもこの孤独に襲われる。

 老演劇評論家を演じたナイジェル・ホーソーンが、いい味を出していた。
捨てられていく年老いたゲイ。
通常の結婚であれば、結婚制度が人間を守ってくれる。
たとえ愛情がなくなっても、一緒に住むことを法律が強制する。
しかし、ゲイは法律の保護がないから、愛情が冷めたらそれで終わり。
より魅力的な人間に移っていく相手の心を止めるものは、自分の魅力を除いては何もない。
しかし老いたるゲイには、魅力が少ない。
そうした哀感あふれる演技は見事だった。

 アメリカ英語だったので、最初はアメリカ映画だと思っていた。
見終わってイギリス人のニコラス・ハイトナー監督の映画だと知る。
他にも多くのイギリス人スタッフがいた。
個人的にはイギリス人もここまでは来ているのだ。
しかし、いかにマイナーな映画でも、イギリスではこの映画は作れないだろう。
この映画は、20世紀フォックス製だから、マイナーではないが。
やはりこの主題は、情報社会の先端を行くアメリカならではのものである。

1998年のアメリカ映画


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