タクミシネマ        スティル・クレイジー

スティル クレイジー    ブライアン・ギブソン監督

 1970年代には、一世を風靡したロック・グループ「ストレンジ・フルーツ」だが、すでに解散し、何年もの月日が経過した。
5人のメンバーとその関係者は、その後さまざまに生きている。
キーボード奏者だったトニー(スティーブン・レイ)は、イビサ島のコンドーム売りで、かろうじて生計を立てている。
そのトニーが中心になって、バンドの再結成に動き出した。
はや50歳になろうとする男性たちが、かつての熱き思いを胸に集まろうとするが、長い年月は人間を変えていもいた。
イギリスを舞台にした、ロックオヤジの映画である。
スティル・クレイジー [DVD]
 
劇場パンフレットから

 トニーとマネージャーのカレン(ジュリエット・オーブリー)の努力で、5人のオリジナル・メンバーのうち、4人までがなんとか集まる。
熱い世界を知ってしまった人間には、平凡な日常は耐えられない。
みな平凡な日常には飽きていたのだ。
しかし、練習をするも、昔の曲はダサくて聞いていられない。
仲間内でのトラブルも多い。
欠員になっているのが、最もカリスマ性のあったギタリスト・ブライアン(ブルース・ロビンソン)で、彼の行方は誰も知らない。
それが協調性を欠くもとでもある。
そんななか音楽好きの彼等のこと、欠員の代わりに新しいメンバー・ルーク(ハンス・マジソン)を加えて、ヨーロッパ大陸にツアーへと出る。

 若い頃に、熱い思いを体験してしまった者たちの再結成への思いと、表現に仕える者たちの心と生活の描写がこの映画である。
表現者の心理は、生活者である堅気の人間とは違う。
表現とは神に代わる行為だから、自分で規準を作ることになる。
神には自分の外部に規準などあるはずがない。
神の存在自体が規準である。
表現者はその神に代わる立場に立つのだ。
生活者には安楽な繰り返しの日々があるが、表現者はいつも時代の最先端に立ち、時代の風に研ぎすまされる。
表現とは狂気と紙一重なのである。
この映画でも、最初死んだことになっていたギタリストは、じつは精神病院に入っていたのだった。

 カレンの娘クレア(レイチェル・スターリング)が、バンドのツアーと一緒に行動し、メンバーのルークと仲良くなる。
しかし、ルークはクレアの見ている前で、他の女性と仲良くする。
クレアはカレンにルークの不義を訴えるが、表現者の特権を認めるカレンは、娘の訴えを嫉妬でしょと一蹴する。
才能に奉仕するのは楽しいことだが、反面また厳しいことでもある。
ボーカルのレイ(ビル・ナイ)は努力の人で、そこそこに上手いのだが、真の才能をもった者の前には影が薄い。
才能とは、まさにギフトなのだ。
この映画の製作者たちには、それが良く判っている。

 最初はダサかった音楽も、映画の終盤へと盛り上がり、20年の不在を徐々にとり戻す。
映画の構成が、音楽の流れと良く合っている。
音楽はこの映画のために作曲されたという。
最後の「The flame still burns」はとても良い曲だった。


神様の前に、全員が生活者だった農耕社会とは異なり、神を殺してしまった現代は、全員が生活者であり、かつ表現者でもある。
この映画のタイトルどおり、何歳になっても狂っている。
表現者の狂気は、もはや若者の特権ではない。
それが現代である。そのメッセージは良く伝わってきた。

1998年のイギリス映画


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