タクミシネマ　　　　　　　　シンプル・プラン

　ハンク(ビル・パクストン)とその兄ジェイコブ(ビリー・ボブ・ソーントン)そしてジェイコブの友人ルー(ブレント・ブリスコー)の３人は、雪の山中で墜落した飛行機を発見する。
しかもその中には、４４０万ドルという現金が入っていた。
３人は、それを猫ばばしようと計画。
ハンクがそれを預かって帰る。
その大金は、誘拐犯に支払われた身代金だったのだが、犯人の飛行機が逃走の途中で墜落したのだった。

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　ハンクは飛行機が発見されるまで、お金を預かっておき、万が一隠匿がばれそうになったら、お金を燃やして証拠隠滅を計るという。
その時になって、何もなかったら、３人で山分けである。
最初それに同意したルーだったが、幾日もたたないうちに、分け前をよこせと言ってくる。
ここで分けたら発覚しまうと見たハンクは、それを拒否する。
しかし、ハンクとジェイコブとの仲も次第に怪しくなり、３人は次第に疑心暗鬼になっていく。
弱気なハンクはともすれば弱気になるが、妻のサラ(ブリジット・フォンダ)はお金に執着する。
仲間割れを誘い、ルーを排除しようハンクをしむける。

　身代金を奪い返しに犯人の片割れが、ＦＢＩ捜査官を装ってやってくる。
サラの機転で、それが偽捜査官だと見抜いたが、ハンクは保安官と一緒に現地に案内する。
飛行機の残骸を発見した彼等は、まず保安官が偽捜査官に射殺される。
次にハンクが偽捜査官を射殺。
そこで、兄のジェイコブが自分を殺してくれとハンクに迫る。

　ジェイコブは少し頭が弱く、すでに４０歳を越えているというのに、失業中である。
彼には家族がなく、今まで女友達もおらず、キスしたこともなかった。
彼は、破産して自殺した父親の影を引きずって、一人寂しく生きてきたのである。
きわめて善良な彼には、失うものは何もない。
農耕社会では地位や身分が人間を守ったから、善良でありさえすれば誰かが伴侶を世話してくれた。
工業社会は個人の社会であり、競争社会である。
情報社会はますますそれが激しくなり、魅力のない人間は、とことんもてなくなるだろう。
彼はこの先、大金を隠匿した罪の意識に、耐えられないだろうと思う。
お金はハンクに譲るから、偽捜査官に射殺されたことにして、自殺を図りたいという。
しかし自殺すれば、ハンクに迷惑がかかるだろうから、ハンクに射殺して欲しいと懇願する。
結局、ハンクは悩みながらも兄を射殺してしまう。

　ＦＢＩが捜査に乗り出し事件は解決するが、お札の番号をＦＢＩは控えてあると知らされる。
ハンクは大金があることがいけないと、サラの反対を押し切ってすべて燃やしてしまう。
その後、ハンクはふだんの生活に戻るが、すれ違ってしまったサラとの生活はすきま風が吹いている。
少しの欲を出したばかりに、少しの悪事を働いたばっかりに、幸せな生活が崩れてしまった。

　普通の人がひょんなことから、大金を手に入れた顛末を描きながら、誰にでも宿る悪への誘いを怖ろしいタッチで展開する。
とりわけ、妻のサラがお金に執着し、ハンクをけしかける悪人の顔を凄みたっぷり演じている。
彼女が全員を殺して、横領してしまうのではと思えるほどだ。
また、ジェイコブ役のビリー・ボブ・ソーントンがややとろい男でありながら、善良な人間を演じて上手い。

　カメラや演出も優れており、雪の景色のなかで、美しい画面構成を見せる。
とりわけ、カラスのいる風景が何度も登場し、その不気味さを強調している。
少ない登場人物、地味な設定など、大ヒットする映画ではないと思うが、とても良く作られた映画である。
しかし、豊かな社会の今日、４４０万ドルつまり５億円を３人で山分けすることに、些細な悪事とはいえ人生をかけるだろうか。
お金が犯罪の動機になる映画は、もう無理のような気もするが。

1998年のアメリカ映画。