タクミシネマ        レストラン

レストラン     エリック・ブロス監督

 ニューヨークの近くニューアークでの話。あるレストランで働く若者たちの毎日を描いて、人種差別を考えている映画である。
白人のクリス(エイドリアン・ブロディ)は脚本家志向だが、いまだ売れておらず、このレストランでバーテンをやって5年になる。
彼は黒人女性のレスリーと付き合っていたが、彼のわがままから破談になっていた。
そこへジャニーン(ローリン・ヒル)という黒人の女性が登場し、相愛の仲になる。

 クリスの脚本が舞台にかかり、それを主演するのが白人のケニーである。
クリスとケニーは友人同士だったが、レスリーをケニーが寝取ったと言うことで、二人は仲違い状態だった。
クリスの脚本の主演者を選ぶオーディションに、クリスは選考者側で出席するはずだったが、寝坊して欠席してしまった。
そこでケニーが選ばれたというわけである。
その脚本は、クリスの体験をそのまま舞台化したようなもので、黒人女性との関係を描いたものだった。

 クリスは何故か黒人女性が好きで、レスリーもジャニーンも黒人である。
そして、レストランという職場でも、黒人たちに理解ある姿勢を見せていた。
それに対して、コックのチーフは白人でありながら、黒人の同僚をニガーと呼びながら、黒人たちと仲が良かった。
黒人が自分たちのことをニガーと呼ぶことは良くても、白人が黒人をニガーと呼ぶことは許されていない。
コックのチーフはこの線を越えていたが、クリスは黒人差別を否定しつつも、この線がどうしても越えられなかった。
頭で判っている差別反対と、体に染みついた人種の無化は違う。

レストラン [DVD]
案内の葉書から

 クリスは黒人の恋人を持つほどには、差別意識が希薄だが、心の底ではニガーと呼べない。
つまり差別意識からは自由になりきってはいなかった。
一般にアメリカの白人インテリたちは、人種差別意識が希薄である。
しかし、それでも差別されている方には、白人たちの建前だけの平等意識には敏感に反応する。

 建前の平等意識が剥がれるとき、それはケンカや口論で思わず本音がでるときである。
その瞬間に差別されている方は、敏感にその差別意識を見抜く。
そして、それをしっかり覚えている。
この映画では、差別が表面からなくなったように見えながら、実は差別はまだ存在するのだと言うことを訴える。

 ここまでいくと、差別を無化することは本当に難しいと感じる。
制度的な平等は、すでにほとんど成し遂げられた。
アメリカの6大都市の市長の半分は黒人であり、州知事にも黒人が当選するようになった。
それでも黒人差別は残っている。
それは経済的な問題であり、貧乏な者は黒人が多いと言われる。
教育程度の低いのも黒人が多い。
この映画でも、字が読めないと言うシーンがあった。
しかし、この映画はそれよりもっと深い部分で、人種差別意識を問題にしている。

 皮膚の色が違うこと、これは現実である。
人種が違うことによる違いがあることは、どうしても存在する。
そうしたなかで、この映画は人種差別をなくしたいと考えているようでもあるし、本当に人種差別はなくなるのかと、問うているようでもある。
人間の意識は、小さな頃からの体験によって形成されてくるから、立場を越えて意識が形作られることは困難である。
そうした今日的な状況を全部踏まえた上で、人種差別を考えている映画である。

 クリスを振ったジャニーンは、彼が何度も復縁を申し込んでも、頑として受け入れない。
彼女がクリスに好感を持っていることは、画面から伝わってくる。
以前の恋人のレスリーも、クリスに恋心を持ちながら、他の男性と結婚していく。
恋心は自分でもどうにもならなく芽生えてしまう。
それにもかかわらず彼女たちは、人種差別意識の上には男女関係を継続させない。
それは女性運動が獲得した地平でもあるし、人種差別撤廃運動が獲得した地平でもある。

 とくにジャニーンは、歌手として自立する夢を持っており、彼女には男性よりそのほうが大切である。
今までだったら、女性の夢はなかなか叶えられず、また男女のつながりを祝福する空気があるから、どうしても恋愛の成就を優先しがちだった。
しかし、今や女性も自分の人生設計を、自力で実現できるかも知れないくらいにはなってきた。
そのため、男性との関係を選ばず、職業人であることを選択できるようになった。

 男性も女性も経済的に自立し、自分の人生設計は自分で確立する時代が来たので、恋愛にも男女が同じ立場でかかわることが出きるようになった。
自分の恋心をなだめることは、辛く寂しいことでもあるが、一生の人生を考えれば、職業が優先するのは当然のことである。
男性にも女性にもちょっぴり苦く、楽しい時代になってきた。
暗いシーンの発色が、悪いのが気になった。 

1998年のアメリカ映画。


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