タクミシネマ　　　　　　　　パーフェクト　カップル

パーフェクト・カップル [DVD]

劇場パンフレットから

　クリントンとヒラリーのコンビが、アーカンソーの州知事から大統領になるまでを、私生活から追った映画である。
クリントンはジャック・スタントン(ジョン・トラボルタ)と名前を変えてあるが、トラボルタの演技はクリントンそっくりである。
また、ヒラリー役はスーザン(エマ・トンプソン)と名前を変えてあるが、これもよくに似ている。

　スタントンが、大統領候補として指名権を獲得するまで、すでに彼は女癖が悪く、多くの女性とベットをともにしていた。
しかし、彼には何とも言えない魅力があり、それが政治家として有効であると同時に、
女性にももてて結果として女性関係でも派手だったのである。

　大統領に立候補すると、それらのスキャンダルを徹底してもみ消すリビー・ホールデン(キャッシー・ベイツ)が、掃除屋として登場する。
彼女はスタントン夫妻とは以前からの親友で、もっぱら彼の影の部分を担当してきた。
リビーは、太陽であるスタントン夫妻の光によって生きてきた、いわば月だった。
スタントンの秘書ヘンリーを演じるエイドリアン・レスターが、若きデンゼル・ワシントンのようだった。

　過酷な大統領戦キャラバンを戦い抜き、彼は大統領になるわけだが、
彼が勉強しているシーンは一切登場しない。
ただ彼の人間的とも言える影の部分を映像化するのだが、何だか許せてしまう彼の性格を上手く映像化していた。
例えば、黒人の少女を妊娠させたかどで、彼が父親だと言われるが、
彼のおじさんが身代わりの血液を提出して上手く逃れる。
それを彼のスタッフは知っていながら、彼を許してしまう。

　個人的なスキャンダルの暴露のしあい、と言った否定的な選挙戦を彼はとらない。
政策で争う、それが彼の若いときからのポリシーだった。
しかし、窮地に陥った彼は、そのポリシーを翻してしまう。
そのため、ビリーは生きる張りを失って、自殺してしまう。

　おそらくすべての大統領候補が何らかの暴露合戦をやっているだろうから、
彼がどうのこうのと言うことはほとんど意味はない。
この映画は実話に基づいていると言うが、どこまで実話か判らない。
しかし、造船所での演説では、彼が大統領になるのは頷けた。
彼は支持者を前にして、肉体労働では雇用は確保できないと正直に言う。
肉体労働から頭脳労働へと転じなければ、アメリカは生き残れない。そのために、再教育の機会を提供すると言う。
これは今から八年前、つまり1992年の選挙の話だから、彼は時代が判っていたとしか言いようがない。
しかも、女性関係と言った個人的な問題は、もはや大問題ではないことも知っていたのである。
ここには文化の成熟がある。

　80年代から続いてきたアメリカの産業構造の変化を、上手く読んでいたのがスタントン陣営である。
もちろん彼の風貌や性格も大切な要素であろう。
しかし、それだけで選挙に勝てるほど甘くはない。
情報戦とか、テレビ合戦とか、暴露のしあいといったマイナスイメージで語られるアメリカだが、
産業構造が肉体労働の重厚長大産業から、軽薄短小の頭脳労働へと転じていることのうえにのらなければ、社会が動くわけがない。

　映画はスタントンの性格に焦点を合わせながら、そのあたりをきちんと捕らえていた。
現職の大統領をモデルにした映画を作るところに、アメリカのマスコミの健康さを見る。
日本でこれが可能か問うとき、否定的な答えしか出てこない。

1998年のアメリカ映画