タクミシネマ        ワン・ナイト・スタンド

ワン ナイト スタンド     マイク・フィギス監督

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 少額予算で傑作を撮った監督の次作は期待せざるを得ないが、必ずしも期待にこたえてくれるとは限らないようである。
お金がなかったときに企画した物は、おそらく暇もあっただろうし、充分に練られていることが多い。
だから傑作になるのだが、一度当たってしまうと、忙しくもなるだろうし、お金も掛けられるようになる。
すると、今までの緊張感が切れやすくなるのも、またありがちなことである。
そうした事情は、建築の世界でも同じである。

 この映画は、「リーヴィング・ラスヴェガス」を撮ったマイク・フィギスの最新作である。
前記のように書いてくるのだから、前作には及ばなかったことは判るだろう。
しかし、様々な人種を登場させたり、映像的には小刻みに暗転させることなど、意欲的なシーンも見られた。
優れた作品だとは思わないが、金を返せと言うほどでもない。

 LAに住むマックス(ウエズリー・スナイプス)が、仕事でニューヨークへ来る。
そして、五年間も絶交状態だった友人を見舞う。
仕事は終わったが、ホテルのロビーに気になる美女がいた。
胸ポケットのインク漏れを教えてくれ、ワイシャツを着替えるために部屋を貸してくれた。
それだけで終わるはずだったが、街はカーニバルでjfk空港までの道が混み、予約してあった飛行機に乗りそこなってしまった。
仕方なしにもう一晩、ニューヨークに泊まることにする。
そこで、またまた偶然が重なって、先の美女カレン(ナスターシャ・キンスキー)と遭遇し、一夜だけの関係ができる。

 それから一年後、友人はエイズが発症し、もはや余命幾ばくもない。
マックスはその友人のために、ニューヨークへ来て看病をするが、なんと友人の兄の奥さんは先の美女カレンだった。
友人が死んで、その追悼パーティでマックスとカレンは、再度できてしまう。
ところがそこは、何と友人の兄とマックスの妻ミミ(ミンナ・ウェイ)も、セックスの真っ最中の部屋だった。
つまり、偶然の夫婦交換である。
それからまた一年後、二組のカップルは相手が入れ替わっていた。
そこでこの映画は終わる。

 何と言うことはない偶然の重なりで、話はご都合主義の固まりである。
まず、ホテルでの遭遇からして、二人が繋がる必然性がない。
一目惚れといえばそれまでだが、交通渋滞や音楽会のチケットが余ることなど、偶然の要素においすぎる。
また、カレンが友人の兄の妻という偶然。
それでも、この映画ではご都合主義には目をつぶっても良いが、やはりご都合主義は物語を薄っぺらくする。

 この映画で、監督は人間愛は一切の条件を不要にし、ただ気持ちのおももくままに行動しても良い、と言いたかったのだろう。
正直で真面目なマックスが、既婚者でありながら人夜限りとは言え人妻によろめく。
そして、カレンの不思議な魅力に虜になっていく。
それを監督は決して非難しない。
むしろ、心がうつろうことは自然で、一度しかない人生は自由に生きろ、とエイズで死んでいく友人に言わせる。
それがこの映画の主題であろう。
しかし、その主題を納得させるためには、物語としての必然性を感じさせてくれることが不可欠である。
偶然の積み重ねでは、説得力がない。

 アメリカの黒人、白人、ドイツ系の白人、中国人と多くの人種を登場させながら、ややパターン化した扱いが気になった。
マックスを演じたウエズリー・スナイプスは、モーガン・フリーマンと並んで黒人としては知的な役が多いが、この映画では力量不足である。
それに、マックスの奥さんのミミが中国人のミンナ・ウェンだが、彼女にはまったく知性的な資質を与えず、セックスとお金が大好きな女性と描いている。
ミミは中国人が演じているが、どうも日本人女性をイメージしていたように思う。
ミミには自己中心的で派手なよがり声を上げさせ、何か日本人女性もしくはアジア人女性蔑視をイメージさせたのは、僕の偏見だろうか。

 黒人男性と白人女性、黒人男性とアジア人女性という組み合わせは、やはりまだ特異である。
「マネー・トレイン」では同じウェズリー・スナイプスが、ジェニファー・ロペスと濃厚なベットシーンを、極めて美しく演じていた。
黒い肌とクリーム色の肌が、何とも言えないこってりとした色調を描いていたが、この映画では黒人と白人でも、黒人とアジア人でも、共に色彩的な美しさは見せなかった。
むしろナスターシャ・キンスキーには、薄い布をまとわせて肉体を隠していたし、ミンナ・ウェンには部分的なアップだけで、全体像を見せなかった。
この監督は美意識ではなく、主題で撮る監督だと感じたが、主題を大切にするのであればあるほど、筋の展開に必然性が欲しい。

 マックスの仕事はCMのディレクターだが、ピクルスのCM等、金のための仕事はしたくないとごねる。
アルマーニのような芸術的なCMを撮りたいと言って、この映画の中でもアルマーニのCMが流れる。
しかし、アルマーニでもピクルスでも、CMである限り芸術にはならないと思うのだけれど、この監督はどう考えているのだろうか。

1998年アメリカ映画

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