タクミシネマ        ぼくのバラ色の人生

ぼくのバラ色の人生     アラン・ベルリネール監督

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ぼくのバラ色の人生 [DVD]
 小学校低学年の男の子リュドヴィックは、女装が大好きだった。
小さな頃は笑っていた両親も、女装がそのまま続き、女になると言い始めると、内心穏やかではない。
フランスの地方都市の郊外での話。
四人兄弟の末っ子リュドは、なぜか夢見る少年だった。
そして、少女になることに憧れていた。
しかし、男は強くあれと言う社会的な強制から、自由になれない大人や廻りの子供たちからは、変な子供としか見られない。
息子に強くあって欲しい、と願うのは特に父親だった。

 最初は笑ってみていた近所の人たちも、学芸会でリュドが白雪姫にすり替わったことから、男女の存在を許さなくなる。
小学校の父母たちは、全員一致して彼の退学を求める嘆願書を校長に出す。
女装だけでも許せない父親だったが、子供をリュドが誘惑したと勘違いした上司から解雇されて、いよいよ堪忍袋の緒が切れる。
いまやリュドの女装は、家族の疫病神である。
リュドは精神科医に連れて行かれるが、治らない。
とうとう、その地域に住んでいられなくなり、家族は他の地域に引っ越すことになる。

 最初、リュドに味方していた母親も、リュドの女装によって自分の生活が浸食され始めると、父親以上にリュドに辛くあたる。
誰でも自分の生きてきた価値観から、逸脱することは大変な冒険なのである。
わが国では、子供の資質を素直に認めるのではなく、親の価値観が子供に強制されやすい。
それは農耕社会の生き方がまだ残っているからであり、個人の自主性が大切にされなくても生きていけるからである。
それが少しずつ崩れはじめ、子供たちは自らの資質をそのまま認めてくれと、登校拒否や親に反逆し始めた。

 どうやってこの映画を終わらせるのかと見ていると、引っ越した先には男の子になりたい女の子がいた。
つまり、少女になりたい少年がいれば、少年になりたい少女もいるのだ。
だから、少女になりたい少年だって、良いじゃないかという結末である。
確かにその通りで、まったく同感である。
この映画で救いだったのは、リュドのおばあさんである。
おばあさんと呼ばれるには、まだ年の若い彼女は若い頃不倫したらしく、当時としては普通の生活をしたのではない。
それが彼女の懐を深いものとし、ただ一人女装趣味のリュドを認めてくれる人物である。

 この映画でも、もちろん最後はリュドの生き方が認められるのだが、両親の揺れが良く描かれており、良い映画に仕上がっている。
しかも、映画全体に童話的な仕掛けが施されており、極彩色の色つかいで画面が大変きれである。
それが「ぼくのバラ色の人生」(原題も ma vie en rose)というタイトルになったのだろう。

 リュドのお姉さんには、少しブスい少女を配して、リュドのかわいらしさをより強調していた。
リュドを演じたジョルジュ・デュフレネがとてもかわいく、少女よりも本当に少女のようだった。
全体にどこにでもいる人たちを配しながら、差別が醸成される構造を描いていた。
ただ欲を言えば、善意で差別が成立する構造を浮かび上がらせると、もっと良かったと思う。

 こうした性別不適合は、既に克服されたと思っていたが、まだ映画の主題になるくらいだから、差別の目にさらされているのだろう。
それがフランスという事情なのか、アメリカでもそうなのかはちょっと判らない。
多分、アメリカでも人の心はそう簡単には変わらないだろうから、やはり主題になるのだろう。
ただフランス単独ではなく、三国共同製作というのが、フランスの後進性を薄めているように感じた。
アラン・ベルリネール監督がとっているが、ベルギー・フランス・イギリスの共同製作である。
1998年。


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