タクミシネマ       リトル・ヴォイス

リトル ヴォイス      マーク・ハーマン監督

 イギリスの田舎町に、下品でさえない母親マリー(ブレンダ・ブレシン)が、後家になって住んでいた。
その娘LV(ジェイン・ホロックス)は無口で、一人で部屋に閉じこもって、レコードばかり聴いていた。
そして時折、そのレコードのそっくりさんを歌っていた。
そんなある時、母親のボーイフレンドのレイ・セイ(マイケル・ケイン)が家に来た。
たまたま彼はLVの歌を聴き、マネージャー業を営む自分の直感から、LVは売れると身を乗り出す。
そして、彼女を売り出そうと必死になる。
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前宣伝のビラから

 ただこれだけの話だが、もう一つの話題が絡んでいる。
それは、ちょうどその頃マリーが、自宅に電話をひいたのである。
その電話工事人の助手をやっているビリー(ユアン・マクレガー)が、LVに一目惚れし、閉じこもりっきりのLVに何かと言ってくる。

 ビリーはレース鳩を飼っていたのだった。
それまで、鳩にしか興味のなかったビリーは、不思議なことにLVと心が通う。
母親を始めまわりのみんなは、LVがスターになって金が入ってくることを夢みて、彼女を何とか歌わせようとする。
しかし、ビリーだけはLVを思いやり、彼女の心の赴くままに行動させてくれる。

 父親の美しい思い出を胸に、たった一晩だけという約束でステージに上がったLVだったが、翌日はステージに上がることを拒否。
ベッドに潜り込んでしまう。
しかし、その時に漏電が原因で出火。
火事からLVを救い出してくれるのは、ビリーである。

 無口な娘の歌を歌う話と、ビリーとのほのかな恋物語だが、それにしても物語の展開がお粗末である。
母親があまりにも下品で、自分のことしか考えていない。
ああした母親がいることはいるだろうが、LVとの対比で見るとちょっと現実的ではない。


 前の家の女性にしても極端に太った女性で、奇妙な登場人物ばかりである。
そのなかに、心のきれいなLVとビリーという設定は、いかにも無理がある。
それに、LVは歌が上手いとしても、彼女の歌はジュリー・ガーランド、ビリー・ホリデイ、マリリン・モンローの物まねであり、観客は彼女自身の歌に感動するのではない。 

 この映画を通じて、監督はいったい何を言いたかったのか、そうしたものがまったく伝わってこない。
歌の上手い娘をめぐって、大人たちが夢みた一夜の話にしては、LVとビリーにウエイトが傾きすぎている。
つまり映画の主題が見えない。

 LVを演じたジェイン・ホロックスは良いとしても、ビリーを演じたユアン・マクレガーはすでに中年に近くなっており、この役を演じるには歳がいきすぎている。
明らかにミスキャストである。
母親のマリーを演じたブレンダ・ブレシンは、上手い演技に足をすくわれており、彼女の上手さがむしろ嫌みにさえ見える。
イギリスでは評判がよかったらしいが、いかに元気のいいイギリスでもでも、この映画はいただけなかった。

1998年のイギリス映画。


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