タクミシネマ        絆 -きずな-

絆 -きずな-          根岸吉太郎監督  

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絆 [DVD]
 白川道の原作「海は涸いていた」を、根岸吉太郎監督が映画化したものである。
珍しく達者な演技陣と、お金をかけた作りの映画だった。
人物像の描きこみも充分であり、画面がしっとりとした色彩で、良くできた映画だと思う。
日本映画は、職人的な技術はいまだ素晴らしいものがあり、活動屋たちの熱意が伝わってくる。
映画の中で登場した新日本フィルハーモニーの音も、柔らかいなかにも厚く聞かせるものだった。
しかし、主題がまったく前近代的で、なぜこうした企画が通るのか不思議としか言いようがない。

 連れ子で再婚した母に、新たな父は優しかった。
妹も生まれ、主人公のテツ(役所広司)も新たな父になついたが、船乗りだった父は外国で病死してしまう。
そこへ別れた夫が現れ、母親からお金をせびりとっていく。
母親は別れた夫の連帯保証人になり、土地と家が他人に手に渡る。
それを悲しんだ母は、家に火を付けて自殺してしまう。
残されたテツと妹は孤児院に引き取られる。
成人したテツは上京し、やくざの親分に拾われる。
妹は音楽家夫妻にもらわれて、有名なバイオリンニストになる。
そして、妹はこの秋に有名な実業家の御曹司と結婚する予定である。

 それを知ったフリーのジャーナリストが、結婚相手の実業家を揺すってお金をせしめる。
そのジャーナリストの愛人がテツの旧友で、孤児院時代の男友達にその事情を打ち明ける。
男友達の彼は、10年前にテツから捨てるように預かった拳銃で、テツへの恩返しとしてジャーナリストを射殺する。
その拳銃は、テツが母親につきまとう実の父殺しに使ったものだった。

 警察は殺人事件に色めき立ち、10年前の事件との関連を探り、テツの身辺へと捜査が伸びてくる。
テツと妹の関係がマスコミに知れると、格好のスキャンダルになり、妹の結婚が破談になる。
それを恐れたテツは、その拳銃で相手やくざの親分を殺すことによって、すべてを自分でかぶろうとする。
自分が死ねば、単なるやくざの抗争と言うことになり、妹の来歴がばれないとテツは考えた。
同時に、高名な実業家のスキャンダルを内密に処理せよと、警察上層部には圧力がかかる。
そのため、捜査担当の佐古警部は動けなくなる。

 テツの筋書き通りに、やくざの親分を殺して、
自分が死んで映画は終わる。
一種の男の美学のようなものだが、実に古い。
男のヒロイズムに酔った、自分勝手な話である。
しかも、警察官である佐古まで、テツの殺人を助ける。
妹の幸福を願うために殺人へとのめり込んでいく、そんな論理が成立するはずがない。
ましてや、やくざの兄を持つことが、結婚の障害となるなら、最初からこの結婚はなかった話である。
お金持ちの実業家と結婚することが、女性の幸せであるという観念が前提で、とても現代の話とも思えない。

 テツは女性にもてる。
美しい女性がテツに言い寄っても、彼はしっかりと捨てていく。
テツは自分の子孫を残したくないために、商売女としか寝ない。
しかも妹の音楽会のあとで、女性がホテルへと誘い抱いてくれと迫るが、彼は毅然と捨てていく。
すべてに自分を殺して、禁欲的な生き方がこれでもかと、画面に展開される。嫌な男性像である。

 廻りの幸福のために自分を殺すのも古いが、それが妹の玉の輿結婚のためであり、その妹はたった一人の血のつながりのある肉親だという。
それでいながらテツは、母親を苦しめる実の父親を殺している。
これでは単なる気分次第で何でも出来るではないか。
実に自己中心的な物語の展開で、幼児性たっぷりの映画である。

 物語の運びはやや遅いが、それでも良く作られた脚本で、人物の描写も良い。
中村嘉葎雄など、やくざを演じさせると皆上手いのはどうしてだろう。
しかし、主題が何としても前近代的である。
1998年日本映画。


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