タクミシネマ        家族シネマ

家族シネマ        朴哲洙(パク・チュルス)監督

 在日韓国人である柳美里の同名の小説を、韓国人の監督が映画化した。
製作スタッフのほとんどは韓国人で、出演者は日本人と在日韓国人という不思議な組み合わせである。
小説の主題は、韓国人や在日韓国人に関するものではないので、なぜ韓国人スタッフになったのか、ちょっと理解に苦しむところではある。
映画で描かれている主題も、民族の問題はなく、家族の問題だけである。
家族シネマ [DVD]
 
ぴあ(10.4)から

 林家は、父親(梁石日)、その妻(伊佐山ひろ子)、本人(柳愛里)、弟(中島忍)、妹(松田いちほ)の5人家族だった。
しかし、父親はギャンブル好き、母親は男狂いで、家族はとうの昔に、バラバラになっていた。
その家族が、自分たちを描いた映画を撮るというので、何年ぶりかで集まる。
その時の顛末が映画中映画として、映画化されたものである。

 家族は同じ屋根の下に住み、一緒に食事をするという現実が崩れて久しいが、それでも家族は同じ屋根の下に住み、一緒に食事をするという常識は崩れていない。
現実はすでに家族を核家族のままにとどめておかないけれど、多くの人は核家族を良しとして生きている。
だから、崩壊してしまった家族を、旧来の常識である核家族と引き比べて、ああだのこうだのと愚痴ることになる。

 この映画も基本的には、その範疇から脱していない。
まず初めに、核家族ありきである。
日本人にしても韓国人にしても、核家族が前提になっているから、壊れた家族をどうするかという方向では、少しも建設的ではない。

 核家族が工業化に最適だったから、大家族から核家族への変化が進んだわけで、核家族それ自体が歴史的に普遍的なものではない。
その社会の産業構造が、人間の結集のあり方を決めるのであって、男女が対になって住むことが、何時でもどこでも正しいわけではない。

 一夫多妻や一妻多夫また通い婚と言った、種々の男女の集住形式をうんだことを見れば判るように、男女の関係には様々な形式がある。
いま、情報社会化し始めた世の中では、男女が対をなして住むことが、必ずしも適合的ではなくなっているのだ。
だから、家族が崩壊するのである。
確認しなければならないのは、ここで言われている家族とは、核家族であって大家族ではない。
わが国では、大家族はとっくに崩壊してしまっているが、韓国では大家族の崩壊が現在進行中である。

 大家族が崩壊するときにも、様々なエピソードがあった。
戸主の役割を果たせなくなった男を描いた小説、道楽息子を生んでしまった家庭の悲劇など、今日の核家族の崩壊と同じ現象が生起した。
しかし、核家族は男女の対を基本としているので、核家族の崩壊を認めることは、社会が崩壊することのように感じているらしい。
そのめた、大家族が分解するときにも大きな抵抗があったのだが、それ以上に大きな抵抗があるようだ。
なかなか核家族に代わる男女関係の提示ができない。

 この映画も、核家族の崩壊の中で、異常な対応をする人々と言った視点しかなく、その次へと進む展望はない。
もちろん原作が、核家族より先の展望など描いてないのだから、その原作に基づく映画に期待する方が無理なのだ。
トンでもなく凄い家族たちと言うが、醒めた目でこの映画を見れば、各人は見事に自立している。
父親は借金とはいえ立派な家を建てたし、男狂いの母親だって不動産業を営んで自活している。

 今日、ローンという借金を使わずに、家を建てる人など少ないだろうし、女性ながら不動産業のプロというのは、立派な社会人ではないか。
また、本人はデザイン事務所に勤務して生活しているし、妹はAV女優で生活が成り立っている。
弟が自閉症だが、母親が面倒を見ると言っている。
確かに家族としてはバラバラだが、各人はきちんと生活できているではないか。
真っ当な家族を営むヤクザや、妾を囲う真っ当な社会人よりも、彼等はずっと健康的である。

 すでにきちんと生活できている大人たちを、いつまでも同じ場所につなぎ止めておくことの方が、変だとは思わないのであろうか。
家族は同居するものだという常識によって、その必要のない者たちを一緒に住まわせることのが、いかに無理なことなのか。
むしろそちらに目を向けるべきであって、家族を不可分の関係と見なすことは、各人にいらぬ強制をすることである。
この映画の中でも、彼等は充分に家族を演じていた。
家族たちの間では、ときどき電話のやりとりもあるようだし、会ったときには喜怒哀楽を持った会話が成り立っている。
明らかにこれは他人以上の関係である。
これで充分ではないか。

 映画としてみると、各部分には笑える要素がたくさんある。
もう少し上手く作れば、上質なブラック・コメディになるのだが、家族の展開方向が判ってないから、まとまりの悪い映画になってしまった。
乾いたタッチ、速いテンポなど、救える要素はありながら、最後にはつまらない映画と言わざるを得ない。
伊佐山ひろ子はそれなりに達者に演技していたけれど、父親を演じた梁石日は素人だから当然だがやっぱり下手で、ミスキャストと言わざるを得ない。

1998年の韓国映画。


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