タクミシネマ        モンタナの風に抱かれて

モンタナの風に抱かれて      ロバート・レッドフォード監督

 小学校高学年の女の子グレース(スカーレット・ヨハンソン)と親友の女の子が、早朝の雪の中で馬に乗っている。
坂道で馬が転んで、そこへ大型トラックがやってくる。
ブレーキの間もなく、トラックは少女と馬をはねてしまう。
友達は死亡、グレースは片足切断。
グレースの乗っていた馬ビルグリムは重傷。獣医からは安楽死を進められる。

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劇場パンフレットから

 事故の影響でグレースは内に引きこもり、心を閉ざしてしまった。
ビルグリムも人間を拒否している。
それを見かねた母親アニー(クリスティン・スコット・トーマス)が、モンタナに住む馬の調教師トム(ロバート・レッドフォード)のところに、グレースと馬を連れていく。
田舎の生活が、グレースの心をいやし、トムの見事な調教によって、馬も再びグレースの騎乗を許すようになる。
それだけの話だが、いつの間にか、一緒に行った母親がトムに恋心を感じ始め、離れがたくなる。
しかし、最後は恋心を振り切って、ニューヨークへ戻る。

 アニーはやり手の編集長で、郊外にある自宅にもなかなか帰れない。
娘はむしろ父親になついている。
グレースが大怪我をしたので、この時とばかりにつきっきりで世話をする。
しかし、それが娘には煩わしい。
娘のためには田舎の調教師のところでの生活がよいと、決断力のあるアニーは行動を起こす。
父親の反対やグレースの躊躇を押し切って、ビルグリムをトレーラーに乗せて、娘とモンタナまでやってくる。
娘と馬の治療のために田舎に来たアニーだが、自分がトムに心を動かされてしまう。
ここから、母と娘の物語から、アニーとトムの恋愛映画へと主題が変わっていく。
この主題の変化に、観客にはついていけないのである。

 後半の主題は、都会に住む心寂しい人間への一服の清涼剤だろうが、設定が少し理解しかねる。
まず、アニーが田舎の生活に巻き込まれていくのは良いとしても、都会での生活が根拠ないものだ、
とアニーに言わせるところは無理がある。
イギリスの田舎の生活とは、都会と対立するものではなく、都会に住む貴族が田舎に別荘を持ち、田舎と都会生活が両立している。
これはイギリスが小さな国だから可能な話である。
アメリカでは、田舎と都会はまったく違っており、別種の人種が住んでいる。
アメリカの田舎は無条件にダサイ。
どこでも古里が田舎にあるのは認めるにしても、都会の生活の癒しが田舎につながるのはノスタルジアにすぎない。

 アメリカは今や世界の価値を体現しつつある。
ダサイ田舎生活に、これがアメリカのもう一つの面だとして、自信を持ち始めたのかも知れない。
そのため、都会生活を否定するのではないが、田舎が都会人の癒しになると考え始めているようだ。
それがアニーの都会での生活に、何の根拠を与えないことにつながるのだろう。
都会生活に根拠がなくても、アメリカはやっていける自信があるのかもしれない。

 都会生活は忙しく、手応えが少なく、孤独であることは確かだが、田舎から都会への流れがより多くの人の生活を許容してきた。
田舎の生活は、自然に支えられて、豊かに見える。
しかし、単位面積あたりの生活可能人数は極端に少なく、天候の変化にはきわめて弱い。
農耕社会では、人間が自然の秩序に従わざるを得ないがゆえに、自然の掟が人間の精神まで決めてしまうのである。
そうした歴史的な背景を無視して、田舎を賛美するのは無理がある。

 単なる田舎賛美では主題としても検討不足である。
また、映画としても間延びした展開で、上出来とは言い難い。
2時間47分という長い上映時間は持たず、途中で欠伸がでてしまった。
夜のシーンが暗くつぶれており、暗い画面にはライティングの工夫が欲しい。
また、逆光を多用しているのは、輪郭を強調したいのだろうが、技に溺れた感じである。
逆光はここ一番に使うべきで、多すぎる逆光はその効果を減らしてしまう。

 ロバート・レッドフォードが監督もしているが、彼はプロデューサーに徹した方がいい。
すでに彼の感性は時代から取り残されている。
原題は、調教師という意味の「The Horse Whisperer」  

1998年のアメリカ映画。


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