タクミシネマ　　　　　　　　Hｏｌｅ

	HOLE [DVD]
	劇場パンフレットから

　強い雨がひきりなしに降っている。
それでなくてもじめじめするのに、美美の部屋は雨がもってくる。
壁紙は剥がれ、トイレは使えいない。
住む人が少なくなったアパートは、がらーんとしており、今や美美と小康くらいしか見えない。
時折、上階からゴミ袋が投下されて、他にも人が住んでいるのが判る。
雨、ゴミ袋、ガラーンとした風景が都会の孤独を表している。
彼等は別々の部屋でそれぞれカップラーメンを食べる毎日である。
小康は食品店を営んでいるが、そこにもお客はほとんど来ない。
美美は何をしているのか不明。ただ雨ばかり。
やがて、美美も例の奇妙な病気になり、彼女の部屋は水浸しになる。
そのとき、上階の小康の部屋から光が到来し、彼女はその穴から救い出されて、映画は終わりである。

　阿部公房とよく似た観念の展開で、この監督は、前作「河」でも奇病と水を使っていたが、こうした設定が好きなようだ。
都会のなかで、人間は孤立し、関係が希薄になっていく。
この監督の発想のきっかけが何だかは判らないが、便利な生活になればなるほど、管理され孤立していく。
都会の孤独がこうした映画を作らせるのだろう。
それはちょうど日本が高度成長に入る頃、同じような主題で映画を撮っていた監督がいた。
近代へと時代が転換するときには、同じ発想が同じように持たれるのだろ。
先進国の人間にとっては、すでに一度見た主題だから、とても理解しやすい。
と同時に、主題の結末が判った映画だから、主題そのものと言うよりその展開のさせ方や、映像美の方に興味がいく。

　劇中に挿入されるミュージカルは、本当にダサイ。
登場する男性たちのタキシードと言い、女性たちのドレスと言い、西洋文明を真似し始めた初期の姿である。
しかも、西洋人の体型にあった洋服をアジア人が着るから、実に惨めな風体である。
まったく場末のキャバレーである。かつてわが国でも同じだった。
しかし、歌い踊る美美は抜群のスタイルと、最高のエンターテインメント性を見せる。
１９５０〜６０年代の香港を風靡したグレース・チャンが歌うのにあわせて、美美の伸びやかな肢体が庶民的に踊る。
当然のこととして、監督は計算しているのだろうが、ここでは近代化が借り物で、まだ台湾人の地についたものとはなっていない。
それはおそらく、日本の近代化に関しても同じことが言える。
もちろん近代は、近代の先へと越えなければならない。

　それぞれの社会で人間は生きており、その社会の問題を全身に浴びざるを得ず、台湾での疎外が今の問題なのだろう。
マイナー指向の監督とはいえ、映像へのこだわりとはっきりとした主張をもった映画である。
長廻しも観念の展開が好きな監督の常套手段だが、この映画も長いカットが多い。
登場人物が少ないことや台詞が少ないことと相まっていささか疲れる。
やはり映画の原点、エンターテインメントをもう少し意識したほうが良いように思う。
原題は「洞」。

1998年、台湾とフランスの合作映画。