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HANABI        北野武監督 

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 北野武監督の7作目であるが、ヴェネチアの映画祭でグランプリを取ったので、一躍有名になった。
結論から言うと、彼の美意識は素晴らしいが、映画の主題は古くしかも右翼的である。
彼の映像的な美意識は大変に優れたもので、挿入された何枚かの絵がとてもよかった。
それは彼が描いたものだそうで、映画の中でも白眉だった。
しかし、主題はいただけない。

 管理化された現代社会のなかで、奔放に生きようとする男の独りよがりなセンチメンタリズムが主題で、実に古くさいものである。
自己陶酔的なヒロイズムが、独特の美意識にのって展開されているだけで、新たな主題はないと言っても良い。
この映画は、すでにやくざ映画が描いたことを、個人的な美意識でなぞっている。

 この映画での演出は以前にも増して静止的で、俳優たちがほとんど動かない。
役者に演技させない動きのない画面は、ただ人物だけを写しだし、見る者に相当の忍耐を強いる。
ワンカットの中で、画面の中央に写された人物が全く動かずに、ただ顔のアップが続く。
実に静的な画面のつながりで、まるで動かない浮世絵の連続である。

 映画そのものは、彼のいつもの暴力物の展開で、彼自身が演じる口数少ない西刑事の純愛物である。
しかし、この純愛は社会性をまったく欠いたところで発揮されるという、実に子供じみたものである。

 殉職した同僚刑事や、下半身不随になった刑事たちに、一方的に個人的な思い入れを残し、しかも不治の病になった奥さんへの純愛を不器用に表す。
しゃべらなくても、心は通じると思っている古い男の典型である。
刑事を辞めてからは、西元刑事は銀行強盗をしてお金をつくり、純愛を貫くのだが、反抗的な様子はあたかも「ボニー アンド クライド」である。

 「ボニー アンド クライド」とこの映画の重大な違いが、二つある。
まず、岸本加世子演じる西の妻は、銀行強盗に参加しない。
彼女は病気でほとんど行動力がなく、西が一方的に面倒を見る設定である。
これが全く現代的ではなく、現代版「愛と死を見つめて」といった感じで、女性に男性の北野武と同質の人格を認めていない。

 柔弱で子供のような女性をいとおしむ構図は、彼の右翼的な体質とあいまって、この映画を独りよがりな主題へと導いている。
これは彼の体質的なもので、独善性とマザコンの混合的表現といった結果になっている。

 彼の映画の主題は、社会に対して一貫して個人的に反抗して、最後に「私」が崩壊するものだった。
それが、今度は女性を伴った点で違っていたが、ここでの女性は人格が与えられてないという意味で、やはり彼の一人映画である。
しかも、最後に岸本加世子に、自分の勝手な思いやりに「ありがとう」と言わせている。
これは自己陶酔の極である。

 もう一つの違いは、自殺する結末のつけかたである。
「ボニー アンド クライド」は、追われた警官たちに蜂の巣にされるが、西元刑事は銀行強盗と殺人の後、かっての同僚に逮捕をしばらく猶予させる。
そして、妻と二人での道行きを楽しみ、刑事たちの見ている前で、自殺してしまう。

 ここは、人間関係が法に優先している日本的な現状がさらけだされ、不愉快なエンディングだった。
もし西が元刑事ではなかったら、三人のやくざを殺した彼は、直ちに逮捕されていただろう。
個人と社会があるのではなく、北野監督の中には個人しかない。
しかも自分の一方的な思い入れが、すべてに通用するという幼児性そのものである。

 きちんと脚本を作って、俳優たちに自分の役割を判らせてから、撮影にはいるべきである。
思いつきの連続で作られた映画としては、緊張感が持続しているが、なめらかなストーリー展開がない。
ヨーロッパ各地でのグランプリは、もはや受賞が先端的なものとして評価されたのではないことを意味する。
ヨーロッパでの映画評価は、時代との関連を見ていない。
受賞は日本の映画産業の発展には良いだろうが、功罪相半ばと言うところである。


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