タクミシネマ        グレイスランド

グレイスランド    デヴィット・ウィンクラー監督

 エルビス・プレスリーの生き続きと名乗る男(ハーベイ・カイテル)が、心に傷を負った人たちを助けて歩く話である。
1977年に死んだエルビスは、ロックの王様といわれ、多くのファンを持っていた。
それまでのアメリカ文化が、ヨーロッパからの移入品であるとすれば、エルビスは初めてアメリカが生んだヒーローだったのだろう。
だから彼に関しては、いまだにアメリカ中の多くのファンが語るし、彼の命日には多くの人がつめかける。
アメリカにとって彼はそのくらい偉大だったのだ。

 家族が崩壊した今、心が傷ついても、その傷を癒してくれる人は近くにいない。
個人個人になってしまった社会では、自分でその傷を癒し、再度生きていかなければならない。
そうした時、過去の偉大な人物の言葉は、心の慰めになる。
それは聖書の言葉でも良いし、哲人の言葉でもいい。
この映画では、それは芸能人の言葉でも良いといっている。

グレイスランド [DVD]
劇場パンフレットから

 似てもにつかないハーベイ・カイテルが演じるエルビスは、金も名誉もすべて手に入れてしまった後、放浪の旅に出た。
そして、旅の先々で、一度は自殺まで思い詰めた人たちの心のケアーをしている。
バイロン(ジョナサン・シャーチ)は列車との衝突事故で、奥さんを亡くし、生きる希望を失っていた。
エルビスが近寄っても、車には乗せてくれたが、邪険にするだけ。
2人の仲は、何度も決裂しそうになる。
しかし、その度に奇跡が起きる。
メンフィスへの途中で立ち寄ったクラブで、マリリン・モンローのそっくりさんアシュリー(ブリジット・フォンダ)と出逢う。

 エルビスに連れられて行った亡き奥さんの墓を前にして、過去の桎梏から解放される。
そして、新しい恋人としてアシュリーを知り、生きる喜びを手に入れる。
しかし、その時はエルビスはすでにいない。
エルビスは、いわば現代版の天使のような存在なのだ。
この映画を見ると、アメリカにおけるエルビスの存在の大きさと、心に傷ついた人々の回復方法を、模索していることを感じる。
しかし、映画としては、なぜバイロンがいつまでもエルビスに従うのかがちょっと疑問だし、奇跡の説明が不足している。
もしこれを、本当に奇跡とするなら、この映画は宗教の領域へと入っていると感じる。

 エルビスの生まれた都市グレイスランドは、ホワイトハウスについでアメリカ人観光客が多い場所だとか。
おそらくアメリカ人なら常識であろうことが、沢山ちりばめられているのだろう。
そうした意味では、外国人の我々には予備知識不足で、この映画を云々することはできない気がする。
エルビスは世界中にファンを持ったが、やはりアメリカのものだと知らされた映画だった。
1959年製のキャディラック・コンバーティブルは、今見ても美しい。

 1998年のアメリカ映画。


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