タクミシネマ        グッバイ・モロッコ

グッバイ  モロッコ     ギリーズ・マッキノン監督

 マラケシュを中心にしたロケが懐かしさを呼ぶ。
ジャマエルフナ広場の活気や、入り組んだ迷路のような街が、映画になりきれていないのがもどかしい。
中庭を持った各住宅の内部など、それでもモロッコの雰囲気は伝わってきた。
1972年の設定だが、車などをのぞけば、街も人も現在とほとんど変わってはいまい。

 同棲していた男性と別れ二人の子供を連れて、モロッコへ渡った女性ジュリア(ケイト・ウインスレット)は、男性からの仕送りが途絶えがちなことに腹を立てていた。
子供の養育費として、幾ばくかが送られてくるはずだが、送られてこないのである。
そんなところへ、ビラル(サイード・タグマウイ)が表れる。
彼は第三世界の人間の例に漏れず、定職はないが、ひどく人の良い奴である。
二人の子供ビー(ベラ・リザ)とルーシー(キャサリン・ムーラン)を初めジュリアも惚れ込んでしまう。

 ビラルの郷里へと四人で遊びに行くが、ビラルには先妻があり、必ずしも故郷は彼に優しくはない。
それに彼は何か犯罪も犯しているようで、その村にも長くはおらず、湖の近くへと避難する。
食べ物もなくなって、四人は立ち往生するが、ジュリアと子供の三人はなんとかマラケシュまで帰ってくる。

グッバイ・モロッコ [DVD]
劇場パンフレットから

 ジュリアはスーフィーなるイスラムの神秘的な宗教に憧れている。
イギリスのギスギスした人間関係に疲れて、モロッコへと流れてきたのだ。
彼女は何としても、精神の安らぎを求めたいと考えている。
それにはアルジェリアに行かなければならない。
お金のない彼女は、ヒッチハイクで行くが、長女のビーは学校などの近代生活に憧れており同行しない。
ビーはフランス人の家に預けられる。

 神秘的な教祖は、ちょうど死んでしまい、彼女は新しい教祖と会う。
この会話がもっと丁寧に撮られて良い。
この映画の主題がいまいち不明確だったが、先進国のせわしない生活批判から、地についたモロッコの生活推奨だとすれば、その精神性は当然イスラムの掟になるわけだから、この司祭の話が重要性を持ってくる。

 ジュリアがイギリスでの生活に疲れたのは良いとしても、それがイスラムになるのは良く判らない。
この映画でジュリアが見せるのは、モロッコではすべて男性がやっていることばかりである。
礼拝にしても、神との会話にしても、モロッコでは女性はやらない。
イスラムでは女性は男性と同じ人間扱いされていないから、ジュリアの行動は近代人そのものである。
そのギャップには映画製作者たちはどう考えているのだろうか。

 先進国の人間は、農耕社会の生活に憧れるが、それはあくまで表面的である。
農耕社会の生活は、人間の精神には優しいかも知れないが、肉体にはひどく過酷なものである。
肉体的に非力な者に、そのツケは集約的に表れる。
つまり子供や老人・女性・身体障害者などは、生き難い社会のだ。
先進国から見れば、すでに男女が同じだと考えているから、女性でも男性と同じ視点で行動するが、農耕社会では女性の地位は男性とは違う。
それを無視して、話をするわけにはいかないだろう。

 しかし、ジュリアのような母親を持ったら、子供たちは大変だ。
近代的な生活に自身の足をおきながら、農耕社会に憧れてその生活に入ると、耐久力のない子供は生きていくのすらやっとになる。
ビラルが工面してくれたとは言え、ジュリアには帰ることの出来るイギリスという場所がある。
それは何としても、現地で生活する人とは違うのである。
そうした意味では、この映画の人間観察は表面的である。

1998年のイギリスとフランスの共同製作映画


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