タクミシネマ　　　　　　　　ファイナル・カット

	ファイナル・カット [DVD]
	前宣伝のビラから

　友人たちは、それぞれに隠していた恥ずかしい部分を、次々に暴かれていく。
それに戸惑う友人たち。
その戸惑いを楽しむジュード・ロウがビデオに登場する、といった仕立てになっている。
しかし、このビデオの目的は復讐にあった。
ジュード・ロウは友人であるレイの奥さんと不倫をしたのだが、彼はそれをビデオに撮った。
そのビデオがホリーからレイにわたり、レイの怒りをかってレイに殺されたのだった。
それに対しておさまらないのはサディである。
普通に逮捕されたのでは納得しないサディは、友人関係を暴き、友人監視のなかでレイに復讐する。
それがこの映画の主題である。

　確かに友人の奥さんと不倫をするのは、道義的に誉められたことではない。
コキュとなったレイが怒るのも無理はない。
しかし、不倫相手の女性とても大人である。
強姦だとか騙したというのならともかく、両者が合意のうえでの不倫なら、男性が一方的に責められるものではない。
しかも、レイが奥さんに対してではなく、相手の男性に対して怒るのは、奥さんを自分の所有物と見なしているからである。
所有物である奥さんには自由な意志はなく、不倫により自分の所有物が犯されたから怒ったのである。

　すべての個人が自立している社会なら、性交をするしないは個人固有の権利であり、共同生活者が云々できるものではない。
もし、他の人と性交をする相手が認められないなら、共同生活を解消する以外に選択の道はないだろう。
その程度には男性も女性も独立した人格であり、他の人の性交権を制限することは誰にもできないのだ。
そうしたことが確認できれば、この映画の主題は復讐劇であることになる。
しかし、他人のプライバシーを暴くのは悪趣味の極みで、一人で秘密のビデオを見るのならともかく、友人たちの前に公開するのはそれ自体が悪である。
プライバシーの暴露は、今や殺人と同程度に重大な犯罪であることを知るべきだ。

　個人の精神的な自由とか、私生活の尊重と言った概念は近代になって誕生したものであり、農耕社会には存在しない。
同様に農耕社会では命の値段が安く、死はきわめて日常の出来事である。
プライバシーなるものは、人命より軽視されるかもしれないが、人命が何よりも大切なものとされるようになったのは、近代以降のことである。
そうした意味では、人命とプライバシーとは密着した概念なのである。
いまやプライバシーの剥奪や侵入は、命を奪うのと同義である。
復讐のために関係のない友人たちのプライバシーを暴いても良いのであろうか？　
サディの気持ちは分かるが、「セヴン」などと同様に一種のリンチ肯定の映画だと言える。

　この映画が暴いたプライバシーは他愛ないもので、誰でもがもっている恥ずかしいシーンばかりである。
しかし、このプライバシーは秘密にしておかねばならないものだ。
他人のプライバシーだと判っていても、自分自身の秘密をさらけ出されているようで、不愉快な映画だった。

1998年のイギリス映画