タクミシネマ　　　　　　　エブリバディ・ラブズ・サンシャイン

　刑務所のなかで、従兄弟同士の愛情を親密にしたレイとテリーは、出所してからレイは堅気になろうとし、テリーはより悪質なギャングになっていく。
しかし、テリーはレイとの友情が断ち切れず、何とかギャングの道に連れ戻そうとする。
レイは地域の友人たちとラップ・グループを作っており、練習に友達つき合いにと、堅気の生活に戻り始める。
そこでクレアという女の子と仲良くなったりする。

　ギャングの世界では、中国系の躍進が著しい。
彼等の仲間が殺されて、テリーは報復を決め武力戦にはいる。
しかし、堅気になったレイはそれには付き合わないので、何とか引きずり込もうとする。
レイが武闘に付き合わないだけならまだしも、クレアと言う女性が登場し、レイを奪っていくようにテリーには見える。
ギャングを舞台にしているが、ここがこの映画の主題である。
男性同士の堅い友情が、他人の登場しかも女性と言う他人によって切り裂かれていくことに、テリーはどうしても耐えられない。
テリーはレイにゲイ的な愛情を感じており、自分からレイを奪う者は誰であっても許せない。
この映画の主題は嫉妬なのである。

　今まででも、恋人が他の人に奪われる話はたくさんあった。
また浮気をする話は、山のようにある。
しかし、それらは異性間の話だった。男性からの話し、女性の恋人がほかの男性に奪われる。
女性からの話、男性の恋人が他の女性に奪われる。
こうした話題でも、映画はたくさん作られてきたし、現在でも多くは男女間の色恋沙汰が主流ではある。
しかし、ゲイが台頭してくると、この映画のように異性に愛人が奪われ、同性が嫉妬することは大いにある。
もちろん、その逆もある。

　ゲイが積極的になり、ストレートの人間を口説き始めると、一人の人間をめぐって二人の異性が格闘することになる。
ゲイの関係が生活次元でだけ止まっていれば、今までのような男女関係と同じように進んでいくだろう。
しかし、同性の場合は仕事をも共通にする例が少なくない。
すると生活から仕事まで、人間存在の全面にわたって、両者はかかわることになる。
愛情問題は家庭内の問題とは限らず、愛情問題は人間の全存在を拘束する。
ここで愛情がこじれると、この映画のような仕儀になるだろう。

　テリーの歪んだ愛情表現は、レイをギャングの世界に引きずりこむが、愛情とは必ずしも善なる社会性と寄り添うものとは限らないから、こうした表現も充分にあり得る。
今までは男性が仕事の世界に生きることが多いから、この映画のようなレイとテリーの話だろうが、女性が仕事に本格的に参入すれば、こうした話題は男女間でも発生する。
性の無化は、ますます社会的な混乱を増やすだろうが、それは人間が自由になる対価として支払わなければならないものだ。

　ギャングのファッションがキッチュだったりして、設定自体が漫画のような作りの映画であるし、堅気になったレイに仕事がないように見えながら、ジャガーのスポーツカーに乗ったりする不自然さはあるものの、主題は真面目で同時代的である。
最後のシーンで、レイに電話が入って事情をばらすのは予測されてはいたが、これ以降の考えを観客に委ねており、良いエンディングだった。
また、映像的には特に新しいものはないが、手堅く撮影されており、イギリス映画の台頭は本物になってきたと感じさせた。