タクミシネマ        ブルワース

 ブルワース       ウォーレン・ビーティ監督

 1996年、アメリカ大統領選挙での話し。
カリフォルニア州予備選挙で、上院議員ブルワース(ウォーレン・ビーティ)が出馬した。
しかし、共和党のドールと民主党のクリントンの一騎打ちと目されて、誰もブルワースには注目しなかった。
彼自身も、香港の先物投資が失敗して、関心は選挙どころではなかった。
彼はその穴埋めのために、1千万ドルの保険を自分にかけて、選挙期間中に自分を暗殺させるように仕組んだ。

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劇場パンフレットから

 三日間一睡もしていなかった彼は、半ばもうろう状態。
しかし、この絶体絶命が彼を変身させる。
今までの良識にあふれた表面的な政治家ぶりは脱ぎ捨て、本心をずばずばと言い始めた。
みんな政治家にすり寄ってくるのは、お金のためだ。
保険屋さんしかり、映画産業しかり、キリスト教会だってそうだ、と公言する。
そんななかで、今や貧富の差が開き、公教育は麻痺し、黒人たちはひどい状態に置かれていると、続ける。
今まの彼の発言とは違うので、関係者はとまどうが、彼には新たな世界が開けてくる。

 暗殺を請け負った人間が差し向けてきたのが、ニーナ(ハル・ベリー)という26才の黒人の女の子。
このニーナがとびきりの美人。
しかし、彼はしつこいパパラッチを暗殺者と勘違い、自分の頼んだ暗殺者に怯えながらの行動。
ニーナのほうは、暗殺するために彼に近づくが、彼のほうはそんなことは考えもせず、ニーナの魅力に惚れ込んでしまう。
選挙当日までの三日間、本来の予定をこなしながらも、脱線に継ぐ脱線。
その中で本音をしゃべりまくる。
テレビの公開討論会では、とうとう黒人ラッパーのようなスタイルで登場。台詞までラップになる。

 途中で生きることに目覚めた彼は、暗殺を中止するように指示を出すが、暗殺のボスは脳溢血で病院へ入ってしまい、実行者にまで中止指令が通っているか判らない。
しかし、公開討論会の後で、その暗殺者はパパラッチであることが判り、彼はニーナの家に雲隠れする。
そこで、ブルワースに心を動かされていたニーナは身分を明かす。
それを聞いて安心した彼は爆睡。
本音の選挙運動が功を奏し、彼は予備選に勝つが、彼の変身を許さない保険会社によって暗殺される。

 黒人問題は人種問題ではない。
皮膚の色が違うという問題ではなく、貧富の問題に過ぎないと言うのがこの映画隠れた主題である。
もちろん一番の主題は、政治家が口で言うことは上辺だけであり、選挙にからんでお金が動き、お金が目当てできれい事を言っている。
その結果は不平等がまかり通り、しわ寄せは貧乏人のところにいき、尻拭いは税金となる。
これを強烈なパロディで描くのが、この映画の一番の設定であるが、単にそれだけでは映画は持たない。

 政治家の主張として、黒人問題を人種問題としてではなく、経済の問題として捕らえようとする姿勢が新鮮だった。
以前からこうした視点もあったが、多くの映画ではまず皮膚の色の違いが先に来て、皮膚の色の違い故に、貧困に落ちいているという展開になる。
この関連を一切考慮せず、彼は皮膚の色は混血すればちょうど良くなると笑い飛ばす。

 おそらく実話をいろいろと脚色した映画だろうが、笑いながらもさまざまなことを考えさせ、楽しく感心させられた映画だった。
ウォーレン・ビーティの一人映画であるが、その才人ぶりに驚嘆する。
日本では一人で何でもする人を、器用貧乏とやや蔑むむきもあるが、彼は脚本から監督、主演までこなしている。
しかも、そのレベルたるや相当な高さである。
クリント・イーストウッドなど優れたその先例はあるが、彼もなかなかに優れた才人である。

1998年のアメリカ映画


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