タクミシネマ        始皇帝暗殺

始皇帝暗殺    チェン・カイコー監督

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始皇帝暗殺 [DVD]
 日本の資本とチェン・カイコー監督ら中国の技術陣が、合作した映画である。
コン・リーがヒロインを演じているが、彼女はどうも馴染めない顔だ。
あれが中国では美人なのだろうか?
演技だって特別に上手いとは思えないし、なぜ彼女がヒロインを演じ続けるのだろう。
彼女が出ると、客の入りが良いのだろうが、ジュリア・ロバーツと同様にどうも良く判らない。

 紀元前三世紀。
秦の始皇帝が秦国の王位についてから、まわりの六ヶ国を滅ぼすきっかけとなる事件を中心に映画は展開する。
秦の国王は小さな時、趙に人質にやられていた。
今は、そこで幼なじみだった女性(コン・リー)=趙姫(この女性が後の趙国の王女である)を愛人にしていた。
この女性が燕を滅ぼすために、彼女が燕に人質となっていくように、秦王と相談のうえ偽装する。
燕国内で工作して、燕から刺客を送らせると言うのだった。
ところが、自分の故郷である趙を秦王に滅ぼされたことから、刺客となる男と恋に落ち、本気で秦王を殺そうとする。

 刺客はもはや人殺し家業から足を洗っていたが、秦王の振る舞いを見て、暗殺を引き受ける。
結果としてはもちろん失敗するので、万里の長城を作った始皇帝となるのだが、この刺客を演じた男と、始皇帝を演じた俳優は上手だった。
しかし、アメリカ流の映画を見慣れた目には、いかんとしても鈍く、展開がまどろっこしい。
そのうえ、中国の習慣が良く判らないから、話の筋道が判りにくかった。

 若くして秦の国王になった彼は、人間的で温かい人だったが、近隣諸国の侵略に手を着ける頃から、冷酷な人間へと人が変わる。
秦国の王でありながら、父親は秦の人間ではないとか、実の父親を逆臣として殺すとか、家臣とと姦通して子供をもうけた母親も殺すとか、この映画は血も涙もない男として秦の始皇帝を描く。
しかし、血も涙もない後半の始皇帝の方が、はるかに魅力的である。

 映画の主張も、当然ながら後半にあると思う。
政治の領域での人間の動きと、血縁や家族と言った人情を秤にかければ、政治的な判断が優先するのは当たり前である。
実の父親とはいえ、それを知らなかったので、今や家臣であり、反抗的な行動を起こせば処罰せざるを得ない。
また母親だとは言え、家臣と姦通し自分の兄弟を生まれては、処罰せざるを得ないだろう。
むしろコン・リー演じる愛人が、自分への愛情を理由に政治的な判断をする人間に、その判断を変えろと考えるほうが的外れである。
愛情と政治的判断を混同するのがおかしい。

 個人的な愛情と、政治的な判断はレベルが違うものであり、だからゆえに両者の相克に悩むのである。
コン・リーが演じた女性のようにセンチメンタリズムで政治が動くものではない。
そのあたりは、中国人たちは先刻お見通しだろうし、そのためチェン・カイコウ監督は、後半の始皇帝を実に凛々しく描いていたのだろう。
そうでありながら、この始皇帝は実に人間臭く、判断に迷い怯える。
そのあたりが中国のリアリズムかも知れない。

 巨大なセット、動員された人数の多さなど、お金がかかっていることは良く判る。
しかし、お金がかかっていることや、巨大なセットはもはや驚きではない。
むしろお金のかけ方が泥臭く、下手なのが見えてしまうと思うのは、後進国中国に対する偏見だろうか。
カメラの捉え方が正攻法で、顔は正面から画面の中心にとらえることが多く、台詞は絶叫か小声かと言った両極で、ここから自然な演技へと脱皮していくのは時間がかかりそうである。
役者は見栄を切りたがるし、何だか京劇や歌舞伎の面影を感じた。
1998年日本・中国・フランス・アメリカの共同製作。


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