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 ウエルカム トゥ サラエボ
 マイケル・ウィンターボトム監督  

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ウェルカム・トゥ・サラエボ [DVD]
 サラエボでの戦闘が激しいなか、多くの特派員が取材にいっていた。
彼等はそれぞれの思惑を秘めて、取材にあたっていたが、一人のイギリス人記者マイケル・ヘンダーソン(スティーブン・ディレーン)は子供の処遇に心を痛めていた。
大人たちは何とか自分で生きているが、子供は親や身内を失い、孤児院で過ごしたりして、あてのない日々を送っていた。
しかも、そこは戦火と隣り合わせで、いつ死ぬか判らないと言う状態だった。


 彼は、何かにつけて子供の状態を放送に乗せていたが、中でも一人の女の子に心が引かれる。
エミラという9歳の女の子は、彼と気があったらしく、何度か彼と話をするようになる。
ある時、何人かの身寄りのない子供たちを、イタリアへ脱出させる話が起きた。
彼女もその対象に含めたかったが、それは出来なかった。
そこで、彼は彼女を自分の家に引き取ることにした。
それも本当は違法行為なのだが、脱出プロジェクトの担当者ニーナ(マリサ・トメイ)が見逃してくれた。

 子供たちを乗せたバスは、前線を通過していくうちに敵側に何人かの子供を奪われる。
しかし、多くの子供は無事イタリアへと落ち延びることが出来た。
エミラのイギリス行きは当初、戦火を逃れた一時的な避難だったが、やがて母親が生きていることが判明し、彼女はサラエボに戻らなければならなくなる。
戦火のサラエボに彼女を戻すことに抵抗を感じた彼は、自分の養女にしようと母親のサインを貰いに母親に会いに行く。
母親は生後二度しかエミラの顔を見たことがなく、簡単に養女にすることに同意する。

 戦争を舞台にしてはいるが、サラエボでの戦争には直接関係ない主題である。
戦争孤児が生まれることは、サラエボに限った話ではないし、小さな個人的な善意によってでは、すべての戦争孤児を救うことは出来ない。
そして、子供だけを特別視することは、ゲリラ戦が主流である現代の戦争では、ことの本質を見失いがちである。
何事も個人的ではない。
そうは言っても、ゲリラ戦と通常戦争を区別したところで、子供が独力では状況を切り開けないことは自明だし、子供が戦争の被害者であることには変わりがない。

 この映画は戦争が主題ではなく、戦争を報道する者の良心を主題にしている。
戦争記者というのは、戦場にいて手を出せば助けられるときにも、マイクやカメラをまわすことを優先しがちである。
この映画でもそうした傾向にたいしてフリン(ウッディ・ハレルソン)の行動で批判する。
目の前の人間を助けるのではなく、報道が優先することには、心ある記者なら誰でも矛盾に陥るはずである。
その矛盾にさいなまれながらも、彼等は職業としての報道を続けていくのだが、心の悩みに一つの解答を与えたいだろう。
それがこの映画である。

 主人公のマイケルは、戦争孤児を自分の養子にするというかたちで、良心との折り合いを付けたのだろう。
古い人道主義に基づいたヒューマニズムに支えられているが、それはそれなりに説得力がある。
状況の中で、様々な決着の付け方があり、孤児を引き取るのが唯一の方法ではない。
しかし、何かをしなければ居たたまれないのも事実だろう。難しい問題である。

 ニュースで使われた画面と、今回の撮影で撮られた画面が上手くつながり、戦争の悲しみが静かに伝わってきた。
国連にしてみれば、紛争地域は世界中にある。ボスニアは14番目に危険な地域だ、と高官の言うシーンがあって、マイケル・ウィンターボトム監督は妙なユーモアを漂わせていた。 

1997年のイギリス映画


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