タクミシネマ              アンダー ザ スキン

   アンダー ザ スキン   カリーヌ・アドラー監督

 本当にイギリスは、どうしてしまったのであろう。
小粒ながら、同時代的な問題意識に支えられた秀作が、次々に生まれている。
しかも女性監督によって。
イフ オンリー」も外国人監督だったが、この映画もブラジル生まれで、イギリス育ちの女性監督カリーヌ・アドラーである。

 特別に派手なストーリーがあるわけではない。
母親(リタ・トゥシンハム)が死んだ後、姉ローズ(クレア・ラシュブルック)と残されたアイリス(サマンサ・モートン)は、孤独の極みに陥る。
妊娠中のローズには旦那もいて、母親とも上手くいっていたように見える。

 それに対して、アイリスは胸につかえた感情のしこりを、自分でも持て余し、その処理に窮する。
2年越しで付き合っていたボーイフレンドがいたが、常識人である彼は自分の心の葛藤を理解してくれない。
彼はいい人なのだが、どうしても心の糸が絡まない。とうとう彼とは別居。

 そうしたところで、心の隙間が埋まるものでもない。
仕事も辞め、飲み屋に遊ぶ。
そこで引っかけた男と、セックス。
それが何かを彼女にもたらしてくれるように思うが、それは単なる錯覚である。
相手の男達は、一夜の関係にしか思っていない。
アイリスは、精神の飢餓状態に陥る。
行きずりの相手とのセックスをしても、男性なら何の咎もない。
しかし、女性が同じことをやると、男性はもちろん女性からも淫売と蔑まれる。

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劇場パンフレットから

 この映画で出色だったのは、女性の欲求を精神的にも肉体的にも、素直に表現していることである。
精神的な飢餓感を映画全体で表現し、性的な欲求はマスターベーションであらわす。
女性が性的な欲求を持つことは当たり前であり、男性だけがマスターベーションをするのではない。

 今までの映画はそうした女性の性的欲求を、素直に見つめてこなかったように思う。
「ピアノ レッスン」など女性監督が性を描き出して久しいが、今までの映画は女性の性を美しいもの、男性とは違う肯定的なものと描きがちだった。
しかし、この監督は、女性の性的な欲求を男性のそれと同じように描き、きわめてドライに見ている。

 やっとこうした女性監督が出てきたかと、女性監督の目のシャープさに、一目置くことができるようになってきた。
日本のフェミニストたちの表現はまるで子供で、自分たちは男性と違って、本来的に肯定されるべきだと言う前提から出発している。

 男性も女性もない。
そこにいるのは、ただ人間だけである。
日本のフェミニストたちには、残念ながら自分の心や体をも、客観的に見る眼を持った人はいない。
願望と現実は違う次元であるにもかかわらず、現状分析に女性が幸福でありたいという願望を混ぜ、希望的観測で現状分析をする愚から逃れられない人たちである。

 画面がつぶれていたり、音楽のかぶせかたに工夫がないなどと、映画の完成度としては、必ずしも高くはない。
しかし、これだけ直截に現実を見ることができる目は、誰もがもてるものではない。
男性とは違う、女性としての存在証明をどう作っていくか、まだどこにもその解答がない。

 この映画でアイリスが示したように、しばらく女性の模索が続くであろう。
アメリカ映画が、男性とまったく同じ人生を女性にあてはめようとしているのにたいして、イギリス映画は女性独自の立脚点を必死に捜している。
この姿勢はいつか必ず花開くだろう。

 こうした監督がいる限り、女性の表現活動にも期待がもている。
女性の表現はまだ見えにくいが、男性の表現とは違う、女性独自の表現をもてる時代に入ろうとしていることがひしひしと伝わってくる。
おそらくこの作品が、一作目か二作目であろうカリーヌ・アドラー監督に、これからの展開を期待する。

1997年のイギリス映画


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