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 ツイン タウン    ケヴィン・アレン監督      

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ツイン・タウン【廉価版2500円】 [DVD]
 イギリスはウエールズの田舎町スウォンジー、老大工ファティが日雇いで働きに行くが、屋根から落ちて脚を骨折。
それに対して、雇った社長のブリン(ウイリアム・トーマス)は見舞いにもこない。
二人のオチコボレ息子ジェレミー(リス・エヴァンス)とジュリアン(リル・エヴァンス)が、その補償を求めて社長と交渉に行くが、けんもほろろの対応だった。

 頭に来た二人がいやがらせするが、ブリンは刑事テリー(ダグレイ・スコット)を使って反撃にでる。
ブリンの差し金だが、ブリンの意向を越えて、テリーがファティの家に放火をする。
そのせいで、老大工とその妻、それに娘エディの三人が死んでしまう。
これで完全に切れた二人は、社長と刑事に報復殺人をする。

 話と言えばこれだけである。
テリーの相棒のグレヨも汚職刑事で、エディと肉体関係を持っている。
社長のブリンは町の実力者でありながら、裏で麻薬取引を行っている。
刑事テリーが麻薬の密売もやると言った、みな悪人であることをのぞけば、特別の仕掛けはない。
登場人物たちはすべて何らかの悪人で、正義漢など一人も登場しない。
それでも、充分に物語は成立している。
むしろ、心からの善人など存在せず、悪人ばかりというのが現代的である。

 舞台はウエールズだと言うが、今のイギリスの荒廃した雰囲気が良くでている。
ちょうど時代の変わり目にいることがよく判る。
かつて日本でも、工業社会へはいるときに社会的な秩序が崩れ、チンピラやくざが跋扈した。
それは映画にも直ちに反映されて、日活ではそうした映画をたくさん作った。
後になって流行った東映のやくざ映画と違い、日活のそれは様式など全くなく、ただ社会的なあぶれ者たちのイライラを、スクリーンに叩きつけたものだった。

 この映画も、まったく同様である。ただ社会的な逸脱から、遊んでばかりいて真っ当な生活をしない。
そして、車を盗んでいる二人兄弟のイライラをスクリーンに描いている。
農耕社会から初期工業社会への転機より、工業社会から情報社会への転換のほうが、よりドラスティックであるだけに、社会現象もずっと過激に現れる。

 日活の映画でも、暴力とセックスそれに麻薬は定番だったが、それでも逸脱者は特定の人間だった。
それが今や誰でも、ごく普通の人間が切れる。
しかも今の切れ方は個人的で、必ずしも大きな犯罪組織を作らない。

 工業社会への転換点では、農業からはじき出された人間を受け入れる職業が、長い時間をかけてではあったが、比較的上手く用意された。
ところが現代では、情報社会の職業が潤沢に用意されているとは言えないし、また情報社会の職業は、特別な訓練を受けた者でないと勤まらない。

 大工の息子でも、体が丈夫だと言うだけでは、情報産業に就職できない。
農耕社会から初期工業社会は、肉体労働という共通項があったがゆえに、労働者の流動化が潤滑にいった。
もちろんその陰には、学校教育の普及があったのだが。

 アメリカは情報社会化に気づくのが早かったので、いち早く教育方法もそれに対応して、変化してきた。
オープンクラスなどの試みは、それを先取ったものだった。
また、デューイなどの働きもあり、すでに第二次大戦の前から教育改革が実行されてきた。
しかし日本では、オープンクラスは子供が落ち着かないとか、教師が集中させられないなどの理由で、歓迎されなかった。
もちろん、なぜオープンクラスかは、皆目理解できなかった。

 アメリカは、オープンクラスの欠点を承知で、それがもたらす長所が不可欠だと、クラスの流動化を決意した。
それに対して、第二次大戦の敗戦からの復興が急務だった日本は、戦前と同じ教育方法をとった。
また、高度成長と相まって、日本の方法が優位であるかに見えた。
それは先進国に追いつくには良かった。
しかし、先端を切り開くには、全くの誤りだったことが、今になると判る。
ミセス・サッチャーがイギリスを荒治療をしたが、実際はどうなんだろう。
そんなに簡単に新たな教育が完成するとは思えないが。  

 情報社会に適応するまで、まだまだ試行錯誤しなければなるまい。
少なくとも、情報社会の教育が確立し、それを受けた者が社会の主流にならないと、社会的な不安はおさまらないだろう。
今イギリスはそれに気づき、社会的な混乱が始まったところだろう。
この社会的な混乱こそ、次の時代を生むための陣痛であり、避けて通ることは出来ない。
日本がそのことに気づくのは、いつのことだろう。
本当にそれに気づくまでは、国民の全員が利権を手放さないだろう。

 ケヴィン・アレン監督は、最近のイギリスの監督にもれず、テレビ出身だそうな。
すこぶる元気良く壊しまくってくれた。1997年イギリス映画。


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