タクミシネマ              カルラの歌

    カルラの歌     ケン・ローチ監督        

 1987年、イギリスのバスの運転手ジョージ(ロバート・カーライル)が、たまたま見かけた女の子カルラ(オヤンカ・カベサス)と仲良くなりたくて、延々とつけ回す。
やがて女性の方でもそれに応え、恋人になる。
しかし、彼女はニカラグア人で、舞踊団の一員としてイギリスに来て、そのまま居着いてしまった女性だった。

 当時のニカラグアは、サンディニスタとコントラの戦争中だった。
この設定が無理である。
バスの運転手ジョージは、問題児というのはいいとしても、彼はモーリーンと結婚式直前である。
その彼がフィアンセにいまいち乗り気でないとしても、彼の行動はまるでストーカーである。
しかも、彼女には本国にアントニオという恋人がいるが、二人は恋人になる。
彼女は二度も自殺するが、これもなぜか判らない。

 ジョージは彼女を助けるために、二人分の飛行機の切符を買って、戦乱のニカラグアへ行く。
ニカラグアへ行くことが、なぜ彼女を助けることかも判らない。
大道芸人という路上パフォーマーで暮らしをたてる彼女が国境を越えることは、ヴィザの問題などはどうなっているのだろうと心配になる。

 
前宣伝のビラから

 カルラの背中の傷に驚くのも不自然だし、展開がご都合主義的で、ジョージの行動やセリフに限らず、独りよがりの正義感が横溢している。
ジョージがニカラグアへ行くことだって、なんだかストーカー的な行動である。
その上、ニカラグアに着いてからは、アントニオやカルラの家族を捜して田舎に行くが、戦中と言いながらアントニオの状況が理解を超える。
最初にきちんと脚本を作らず、行き当たりばったりに撮っている感じがする。

 ニカラグアで人権擁護活動をしているのが、ブラッドリー(スコット・グレーン)という元CIAというのはあるとしても、ジョージはコントラの襲撃を一晩受けただけで、縮み上がってイギリスへ帰ると言い出す。
そんなことはイギリスにいた時だって判っていたはずである。
にもかかわらず、カルラを愛しており、一緒にイギリスに行こうと誘う。
彼はバスの運転手をすでに失業しており、どう言った生活の目算があるのだろうか。

 ケン・ローチ監督は、脳天気な人道主義に立って愛情を説くが、戦争と言った状況は個人の思惟を越えている。
彼はサンディニスタ側に立って映画を作っており、コントラはアメリカのCIAが独裁者ソモサと結託していると見ている。
構造はそうかもしれないが、本当の事情はそう簡単ではない。
ソ連とアメリカの代理戦争で、しかもサンディニスタ側もひどいことをやっている。
後年、ノリエガはアメリカに逮捕されているように、スペイン市民戦争の中米版である。

 戦争を単純な正義感から描くことは危険で、脳天気楽なケン・ローチ監督は、錯綜した現代が見えない。
名匠が年をとると、駄馬にも劣る例である。
また、年のいったロバート・カーライルが、この恋愛をするのは無理である。
主題もピントはずれ、画面としても美しいわけではなく、つまらない映画だった。
1997年イギリス映画。


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