タクミシネマ　　　　　　　　　　　　　　目撃

ＴＡＫＵＭＩ−アマゾンで購入する

目撃 [DVD]

　強盗殺人事件として、警察から追われる。
そして、サリバンからも追われる。
ルーサーには美しい独身の娘がおり、地方検事になっている。
盗賊でありながらも、父親として彼女への愛情を見せる。
映画はルーサーと大統領警備官と警察の知恵比べとなる。
娘の命がねらわれたりして、ハラハラドキドキはあるが、ルーサーが勝つ結末は見えているから、安心してみていられる。

　大統領の後見人でもあるサリバンの人物の設定が面白い。
貧困から立ち上がった男性だが、まじめで誠実な老人である。
妻に先立たれて、若い後妻をもらった。
しかし、自分はすでに性的な能力が衰え、若い妻を満足させられない。
そこで、妻の男性付き合いを許す。

　ところが、妻が夫に隠れて他の男性とつき合うのは嫌だという。
隠し金庫の一部をマジックミラーにして、サリバンに見ていて欲しいという。
そのために隠し金庫のなかに椅子があった。
サリバンはその椅子を使ったことはないが、他の男性と肉体関係を持つ妻を愛していたという。

　谷崎の「痴人の愛」などでは、衰えゆく体力を観念で回復しようと、変態的な行為までして、性的な能力の回復を必死で試みる。
生理的に衰えるという自然を無視した、老人＝権力者のあがきがともいうべき主題が、読者の理解を得てきた。

　その背景には、強い男性は性的な能力も強いという幻想が、いままで支配的にあった。
これは強い男性性という理念が、人間の自然な構造をも越えて、人間を拘束していた男性支配の名残である。
この映画では、愛情と性交の分離が、第一の主題とはなっていないが、今後この主題はどこかで扱われるだろう。

　地方検事をつとめるルーサーの娘のケイト(ローラ・リニー)と、何となく息が合う警察官セス・フランク(エド・ハリス)は独身とはいえ、５０才近い中年である。
しかも、眼鏡をかけた禿頭。
あれだけ風貌の異なる男女が、互いに好感を持つというのは、時代も変わったものである。
情報社会では、年齢の違いは恋の妨げにならない。

　強盗でありながら人殺しはしないという、クラシカルな大強盗ものといった感じの映画で、映画は格の高い仕上がりになっている。
前半は鈍い展開でどうなるのかと思っていると、後半にかけてはきっちりと話が進む。

　現代の優れた映画はリアルでスピーディ、そして意外性に富んでいる。
天才的な個人の職人芸的な窃盗犯は、古き良き時代の犯人像かも知れない。
だから、映画は間が持たないのだろう。コミカルに仕立てたりして一捻りしないと、大強盗なる設定は衝撃が薄い。
良い映画だとは思うが、感興が薄いのも事実である。原題は、「Absolute Power」。
1997年アメリカ映画。