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真夜中のサバナ   クリント・イーストウッド監督 

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真夜中のサバナ 特別版 [DVD]

 クリント・イーストウッド監督の20作目だという。
20本も作ってきたと言うことは、それなりに配給も順調と言うことなのだろう。
しかも「許されざる者」では、オスカーまで受賞してしまったのだから、彼はもはや俳優と言うだけではなく、優れた監督と言うべきかも知れない。 

 雑誌の記者ジョン・ケルソー(ジョン・キューザック)が、ジム・ウイリアムス(ケビン・スペイシー)という富豪のクリスマス・パーティーを取材に、ジョージア州のサバナへ来る。
サバナは古い建物が残っており、アメリカでも有数の美しい町と言われている。
同時に、南部の田舎町の例にもれず、きわめて内向的で保守的な町である。
しかも、今日的な目から見ると、変人とは言えないないが少し奇妙な人物たちが住んでいた。

 ジムは、その町でも一番美しいとされる、歴史的な豪邸に住んおり、貧しい生まれながら出世して貴族的な生活を送っていた。
彼はいまだに独身であり、若い男ビリー・ハンソン(ジュード・ロー)を雑用係に雇ったが、ビリーは仕事の合間にはジムのゲイの相手もしていた。

 クリスマス・パーティーの翌日、ジムはビリーと口論となり、愛憎半ばする中でビリーを撃ち殺してしまう。
それを知ったジョンは、不思議な町サバナに興味を感じていたこともあり、クリスマス・パーティーの取材にとどまらず、殺人事件の顛末を取材し始める。
もちろんジムの許可によって、パーティーの取材を始めたのだから、中立性を保ちながらもジムサイドで話はすすむ。

 映画の焦点は、保守的な町にあって一代で財をなした男への嫉妬と憧れ、そしてゲイであることへの功罪である。
彼の催すクリスマス・パーティーには、地元の有名人たちがこぞって招待されたがる。
しかし一度、彼が容疑者として法廷に立つと、証人となる人間はぐんと減る。
映画は、陪審員を前に彼の正当防衛が認められるか、ゲイという偏見の前に有罪となるかをめぐって展開する。

 この映画の原題は、「Midnight in the garden of good and evil」であり、最初と最後に少女が両手に皿を持った彫刻が映し出される。
ちょうど司法の象徴のように、二つの皿は正義と悪を表している。
日本のタイトルでは消えてしまっているが、この映画の主題は正義と悪である。
それを保守的なサバナに設定して、田舎町でも近代化は否応なく押し掛けてきて、古き良き時代に生き続けることは出来なくなる風景を描いている。

 サバナはブードゥー教のメッカでもあり、古い土着信仰であるアミニズムが生きている。
古いものが残っているということは、都会の人々はすでに頭の片隅にも置かない地霊信仰が、いまだ生きいることでもある。
ブードゥー教の女霊媒師ミネルバ(アーマ・p・ホール)が、一種の狂言回しのような役割で登場する。
近代と前近代の絡み合いは、わが国の映画と同じような扱い方で考えさせられた。

 近代へ完全に心情移入できない時には、前近代の象徴にもそれなりの役割をふるのは、日米共通である。しかし、前近代の再評価は、あくまで今日的な立場からしなければならず、前近代への感情移入は危険だし、後ろ向きの姿勢は何物も生まない。

 もう一人の狂言回し、ドラッグ・クイーンのザ・レイディ・シャブリは圧巻である。
黒人の彼女は、ナイト・クラブでショーを見せる芸人だが、実に達者なものである。
彼女は俳優が演じるのではなく、本物の彼女がスクリーンにもそのまま登場している。
プログラムによれば、ミス・ゲイ・ワールドなどでも優勝経験があるそうで、手術は受けておらず、月に二回のホルモン注射を受けて、女性的なスタイルを保っているという。

 2時間半を越えており、映画としては長すぎる。
長いことに必然性があるなら納得もするが、むしろ無駄と思えるシーンが多々あり、もっとカットを短くした方が引き締まってくる。
裁判のシーンにしてもメリハリがないし、黒人社会のパーティーはカットしてもいいシーンである。
プログラムを読むと、実際の話は裁判が何度もあったらしいが、どれが差し戻しでの再審かは判らない。
それは構わないと思うが、長い割には、説明すべきことが説明されてないように感じた。

 ミステリー映画でありながら、正義とか悪といった主題を感じさせる。
クリント・イーストウッドは真面目に映画作りに取り組んでいることが感じられる。
しかし、彼の思惑はやや空回りしており、映画の山場を作ることに失敗している。
主題を全面に出さず、何となく判らせる作り方であるだけに、もっとくっきりと話を伝えるように展開させるべきである。
1997年アメリカ映画。


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