タクミシネマ             ラヴ & デス

ラヴ & デス    リチャード・クウィートニオスキー監督

 イギリス人の作家ジャイルズ(ジョン・ハート)が、たまたま映画で見た若い俳優ロニー(ジェーソン・プリーストリー)にのぼせあがり、追っかけをやるという映画である。
ただし、追っかける方がイギリスの高名な作家、追っかけられる方がアメリカ人の若い男優となると、事情は違ってすぐにゲイという話しになる。
しかし、この映画はゲイではなくホモの話。
歳をとってから、若い男に狂ってしまった老人の幸福な錯覚を描いた、イギリス風のコメディである。
イギリス風のコメディだから、どこがおかしいのだか判らず、ちょっとも笑えないのである。

LOVEDEATH ON LONGISLAND
劇場パンフレットから

 ホモが若い男性を讃える話はたくさんあり、いかに若い男の子が気持ちよいかと歌い上げるのには事欠かない。
そのために、いい大人が、若い男の子に身持ちを崩すなという警句もまたたくさんある。
それくらいホモは当たり前にあったことなのだ。
しかし、今日的な眼で見ると、既にホモはまったくの時代遅れであり、この年寄りの行動は、単なるストーカーである。

 誰でも恋に陥ると廻りが見合えなくなる。
たとえ歳をとっても同じである。歳をとったら少しはものが見えるかと思いきや、まったく駄目。
彼は雑誌からロニーの写真を切り抜いたり、関連品を集めたり、まったく小学生である。
しかも、子供と違ってお金があるから、何でもできる。
ロニー恋しやが高じて、とうとうロニーが住むアメリカのロングアイランドまで出かけてしまう。

 幸運にもロニーに会うことができ、ロニーの同居のガールフレンド・オードリー(フィオナ・ロウイ)を含めて何日か過ごす。
スクリーンで見たのと、現実は落差があるはずだが、ここではまったくそれは現れない。
ただ楽しく時間を過ごすが、彼が内心を打ち明けたとたん、ロニーは怪しげな目で見つめて去っていく。
当然だろう。

 これだけでは映画にはならないので、イギリスの文化とアメリカの文明を対比させたり、
「ベニスに死す」を下敷きにしたり、「ビバリーヒルズ青春白書」をパロディにしたりと忙しい。
イギリス人がこの映画をおかしいと感じ、劇場中が爆笑の渦に包まれたとしたら、イギリス人の頭の中は不可解の一語につきる。
たしかに、ニヤリとさせられる場面は何度かあるが、映画全体ではちっともおかしくない。
むしろ悲劇ですらある。

 映画としても話がのろく、平凡なカメラワーク、ご都合主義の展開など、良いところを見いだすのは困難である。
最近はイギリス映画が元気だが、この映画に関しては、見るべきものはない。
老人をジョン・ハートが演じているが、彼が少しもインテリでなく、精神性を感じさせる雰囲気を持ってない。
また、ロニーを演じたジェーソン・プリーストリーも、ホモの相手としては年齢が行きすぎている。
すべすべの肌、高い声、華奢な身体と言ったホモが好む条件を彼は既に失っている。
成人が少年を愛する構造が崩れているが、この映画の主題を不鮮明にしている。

1997年のイギリス映画


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