タクミシネマ             ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア

ノッキン オン ヘブンズ ドア     トーマス・ヤーン監督

 不治の病と宣告された男2人マーチン(ティル・シュヴァイツガー)とルディ(ヤン・ヨーゼフ・リーファース)が、病室を脱走し、ヤクザの車を盗み、いまだ見ぬ海を見に行く話である。
マーチンは脳腫瘍、ルディはガンである。
2人は病院の駐車場に停めてあったブルーのメルセデス230SLを盗んで、海を見に行く。
ところがその車のトランクには、100万マルクが入った鞄が積まれており、ヤクザにも追われることとなる。

 盗んだ車への給油で、まず強盗。
パジャマで病院を抜け出した彼等は、次に洋服屋で着るものを入手。
そのついでに近くの銀行から75000マルクを強奪。
やがて、100万マルクを発見、
それからは大名旅行となる。
しかし、銀行強盗の彼等は、警察からは追われ、ヤクザからも追われる。
窮地に陥るたびに、新たな手段で何とか脱出し、最後には海を見ることができ、その場で死んでしまうマーチン。
このラストシーンがとても良い。

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア [DVD]
 
劇場パンフレットから

 死を前にした人間の投げやりになりがちな心境を、コミカルに描いており、それなりに楽しめる映画である。
生きているから何でもできる。
確かにそう思うが、では明日死ぬんですと言われると、さて何をしようかということになる。

 死を見つめることによって、生きる意味を振り返ると言う主題は、良く伝わってきて考えさせるところである。
後わずかな命と言われたときには、いったい何をしたいんだろう。
病気で余命幾ばくもないと言われたときは、普通は体が自由にならないときが多いから、弱気になって大した希望が言えないことが多い。

 この映画の主人公のように、余命はいくらもないが、体は普通のままということであれば、したいことはいくらでもあるだろう。
これからやりたいことを2人が書くシーンがあるが、マーチンは20項目、ルディは8項目をあげる。
そして、2人は互いの1番目の希望を実現させようとする。
マーチンは母親にキャディラックを買うこと、ルディは女性2人を侍らせることと言う平凡さである。
他の項目は語られなかったが、いずれにせよそれ程に大それた希望ではないだろう。
人間とは意外に平凡な生き物だと言うことが判るし、逆に日々の毎日が大切だと言うことも判る。

 生きることを前提とすれば、当たり前に思えることが大切なのかも知れない。
映画を見に行けたり、美味い物が食べられたり、ゆっくりと寝たり、こうした平凡なことが自分の好むように実現できる状態。
こうしたことが幸福の条件なのだろう。
しかし、その平凡さを実現するために、とんでもないことをやってしまうところが、映画としての面白さだろう。

 ドイツ映画でありながら、香港映画やタランティーノのような画面作りで、世界は狭くなっていると感じる。
ギャングや警察が登場し、拳銃がはでに乱射されるが、アメリカ映画と違って一人も死なないのは、見ていて安心できる。
いくら映画とは言え、人が死ぬ場面は心穏やかではなく、できることなら残酷なシーンは見たくない。
ところで、出演者や製作者の名前がでた後で、まだ映画の続きがちょっとある。
普通なら、観客はどんどんと立ってしまうのに、誰も立たなかったのはそれを知っていたのだろうか?

1997年のドイツ映画。


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