タクミシネマ              インディアナ・ポリスの夏 青春の傷跡

   インディアナポリスの夏   マーク・ペリントン監督

 1954年、朝鮮戦争から復員した2人の男性の青春物語である。
1人はソニー(ジェレミー・ディヴィス)で、アメリカ国内勤務だった。
もう一人はガナー(ベン・アフレック)で、朝鮮の前線にいっていた。
高校が同じだった2人は、帰りの列車の中で知り合い、意気投合する。
インディアナポリスの夏 [DVD]
劇場パンフレットから

 2人はちょうど20歳。
これからの人生計画を何とか立てようとしているが、何をして良いか判らない毎日である。
戦争から帰ってきて、すぐに自分の人生設計などできはしないほうが自然である。
ガナーは明るく外向的で、スポーツ万能、女性にはモテモテのいわゆる格好いい奴。

 それに対して、ソニーは内向的で、スポーツはダメ、体も貧弱である。
ソニーは落伍者ではないかと落ち込み、引っ込み思案になる。
それでも2人の若者は、若い女性との付き合いにだけは興味津々である。
特にソニーは屈折した心理だけに、妙に不安定に見える。
2人とも高校の時からの恋人がいて、せっせと付き合っている。
しかし、2人には何か物足りない。

 高校時代の恋人は、2人とも良い女性たちである。
しかし、インディアナポリスという田舎で一生を送ろうとしている彼女たちには、若者を強烈に引きつける何かがない。
2人ともそれが何だかは判らないが、そこへ来年ニューヨークに行くという格好いい女性マーティ(レイチェル・ワイズ)が現れる。

 ガナーはのぼせ上がるが、如何せん教養のなさが丸出しで、軽くあしらわれる。
けれども、全力で生きるガナーの姿はマーティをとらえ、2人は恋人となる。
マーティの紹介で、ソニーにも格好いい女性ゲイル(ローズ・マクガワン)が現れる。
ソニーはたちまち夢中になる。
しかし、肝心の時に勃起しない。
ゲイルに白い眼で見られたソニーは、落ち込んでしまう。

 車で事故って、ガナーは無事だったが、ソニーは数ヶ月の入院。
ガナーは一足先にニューヨークへ。
粗野なガナーとの付き合いを、快く思っていなかったソニーの母親(ジル・クレイバーク)は、ガナーからの手紙をソニーに見せない。
しかし、ガナーからの手紙を発見したソニーは、それまでの恋人バディに別れを告げ、ニューヨークへと向かうところで映画は終わる。

 ソニーの家庭は、敬虔なクリスチャンで、両親ともに彼のことを心配している。
しかしその扱いは、彼を自立した個人とは見ておらず、子供が自分たちの思惑どうりに育つと錯覚している。
ガナーの母親(レスリー・アン・ウォーレン)は、子供に自分をニーナと呼ばせ、派手でセクシーだが、やはり子供に対しては自分の価値観を押しつける。
2人の親たちは、心から子供たちを愛しかつ案じているが、自分たちの経験からでておらず、過去から子供の将来を決めようとする。
子供たちは、親の心配が判るだけに、なかなか親に反抗できない。

 朝鮮戦争終了当時の時代を背景にして、若者の青春を少しほろ苦く、しかし温かい目をもって描いた映画である。
登場するすべての人間が良い人でありながら、なぜか若者を閉じこめてしまう空気。
そこから出ようともがく若者たち。
いつの時代にも共通するだろう青春の思い出。
何にでもなれる可能性と、自分でも良く判らない心のもやもや。
この映画はちょっとセピアがかった画面で、そうしたものをうまく表現している。

 劣等感でいっぱいの若者ソニーをジェレミー・ディヴィスが演じ、粗野だが良い奴のガナーをベン・アフレックが演じているが、ともに適役であった。
また、もてないけど気の良い女の子ソニーの恋人バディ(エレミー・ロケイン)が、いかにもいるようなタイプで、哀しさと共感をもった。
何も壊れず、低予算映画だと思うが、なかなか良い映画である。
勃起しなかったソニーをなじったゲイルにたいして、ゲイルこそ駄目な女だとガナーは言う。
男性の自立が困難になる今後、この台詞は多くなるだろう。

 映画の中で、ソニーがサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」を持ち出すのは良い。
しかし、ガナーが「孤独な群衆」に論及するのには驚いた。
リースマンの書いたこの本は、1950年に発売されている。
それが1954年という時代設定で、20歳の高卒GIに読まれていたのだろうか。

 「孤独な群衆」は高卒のGIに、馴染みのある本とは思われないから、原作者ダン・ウェイクフィールドの思い入れで挿入されたものであろう。
そう見ると、この映画はとても知的な作業の結果生まれたとわかる。
わが国で「孤独な群衆」が出版されるのは、1960年に第2版が出た後の1964年である。
大衆社会の到来が、米国とわが国ではずいぶんと違うことが判る。

 この映画を撮ったマーク・ペリントンは、これが監督第1作目である。
この次ぎに、わが国では先に公開された「隣人は静かに笑う」を撮っており、これも良い映画だった。
彼の将来が期待される。
原題は「Going all the way」だが、「インディアナポリスの夏」という意訳は許されるだろう。
しかし欲を言えば、もう少し可能性を感じさせる題でも良かったように思う。

1997年のアメリカ映画 



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