タクミシネマ              ガタカ

 ガタガ     アンドリュー・ニコル監督

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ガタカ [DVD]
 国籍不明の面白い映画が生まれた。
アメリカ映画だと思うが、ヨーロッパ的な映像スタイルを持った近未来映画である。
ライトの建築、コルビジェの椅子、ペンの写真のイメージ、シトロエンの車といった過去のものを使いながら、近未来を描いている。

 空飛ぶ乗り物も登場せず、奇想天外なものはないけれど、映像表現は新鮮である。
目に見える科学の成果が上がった時代を借りて、近未来を描くのは映画の主張と良く重なって、硬質な社会を描くことに成功していた。
また、ユナ・サーマンの雰囲気も、無機的な感じが良く出ていた。

 子供が産まれると、直ちに遺伝子検査をされて、その子の一生が判ってしまう。
主人公ヴィンセント/ジェローム(イーサン・ホーク)は、親が自然のうちに愛し合い、神様に任せて自然のままに出産したので、頭脳は優秀だけれど肉体的には劣者だった。
人工的に受精卵を選別して生まれた弟は、兄より体力に勝り、いつもヴィンセントは競争に負けていた。
しかし、あるとき奇跡がおきて、弟に勝った。
それ以来、彼は宇宙飛行士になる夢を抱いて成人する。

 現実は甘くない。
どんなに見かけ上は健康人でも、遺伝子検査で不適格と判定されたら、宇宙飛行士にはなれない。
30歳までしか生きられない彼は、劣等の烙印を押されて、底辺労働者に組み込まれてしまった。
しかし彼は、どうしても宇宙へ行きたい。
犯罪であることを承知で、優秀な体力を持ったジェローム・ユージーン(ジュード・ロウ)の遺伝子になりすますことを画策する。

 この映画の世界では、顔が似ているとか性格とかは無視され、遺伝子が当人のIDである。
検査のたびに、ジェロームの血液、尿、心電図データーなどを、すり替えて提出する。
そして、彼はエリート集団であるガタカに、潜り込むことに成功する。

 ところが、そこで殺人事件が起き、まったくの偶然から不適格者が紛れ込んでいることが、バレてしまう。
しかも彼は、殺人犯と疑われて、きびしく追求を受ける。
最後には真犯人が判明し、彼は宇宙旅行に出ることが出来るのだが、すねに傷を持つ彼は、警察の追求におびえる日々である。

 この映画の主題は、科学が進歩して、人間の一生が遺伝子で簡単に判明し、それによって強力な差別ができあがっていく。
それに対する批判である。
不変の遺伝子情報、これが人間の性格や性能を決めるのではあるが、それによって人間を分けることは、絶対にいけないとアンドリュー・ニコル監督は言う。

 遺伝子情報によって、何歳にどんな病気が発症し、何歳まで生きるかが判るから、科学の名の下に人間の選別が許容されやすい。
人の心の動きまで遺伝子によって決定されているとすると、つまり心の動きも物質の反応にすぎないとしたら、この映画の主張だけでは科学の名のもとのファシズムには抗しきれない。

 しかし、地球を捨てたかったヴィンセントだが、その出発が近ずいたとき、同僚のアイリーン(ユナ・サーマン)に恋をしてしまう。
アイリーンはエリートではあるが、地球から出ることは出来ない次席のグレードである。

 物質的には満たされた世界で、エリートが支配し、それ以外の人間は底辺労働に従事させられている社会。
人を愛するといった感情は無視され、科学の名のもとに、効率的な人間支配ができあがっている。
そこでは、社会の階梯を踏み外したと烙印を押された人間は、一生下積みである。

 ヴィンセントに遺伝子情報を提供するジェロームにしても、体力的にはエリートでありながら、オリンピックで期待された金メダルをとれなかったばっかりに、人生を投げて自殺未遂。
そして下半身不随になり、遺伝的には超優秀でありながら、屈折し内向する。

 お話としてこの映画は良くできていたし、とても楽しめたが、支配の構造という政治的な面から見ると、この映画のようにはならないだろう。
この映画が前提としているのは、工業社会の暴力的な支配構造で、それはもはや古い。
暴力で支配が出来ないと判ったから、植民地はなくなったのだし、普通選挙なるものが生まれてきたのだ。

 暴力による強制的な支配は、きわめて効率が悪く、生産力が上がればあがるほど、対応できなくなる。
しかも、一部のエリートが大衆を支配する構造は、支配のロスが大きくて、情報社会に対応するのは無理である。
この映画でも、不適格者が住む地域といっていたが、アメリカの居住地域分けからの連想だろうが、ああした形ので暴力を背景とした完璧な支配は成立しない。

 肉体への直接的な働きかけはもう終わった。
科学が進んだ世界での支配は、心から労働に賛同するようなマインドコントロールだろう。
マインドコントロールが可能なことは、ナチや天皇制がやって見せたから、十分に可能である。

 小規模な形では、オウムや他の多くの宗教団体が実践している。
それが国家の支配力を背景にして、マインドコントロールを始めたら、その恐怖はこの映画どころではない。
そうした意味では、この監督の視線は短いと思うが、映像作家としては主張や思想を持っているので、今後が楽しみである。
1997年アメリカ映画。


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