タクミシネマ　　　　　　　　　　　　　フル・モンティ

　イギリスは鉄鋼の町だったシェフィールドが、いまは寂れて失業者があふれている。
カズ(ロバート・カーライル)は離婚したうえに、失業中の身である。
７００ポンドを支払わないと、子供ネイサン(ウイリアム・スネープ)の共同親権が剥奪されることになった。
もちろんそんなお金はない。旅回りの男性ストリップに女性達が熱を上げたのを見て、男性の素人ストリップを思いついた。
素人である以上、プロ以上のステージを見せなければ、客は入らない。
そこで、フルチンになるストリップを計画する。

　ややくすんだ画面がイギリス映画らしい雰囲気で、役者達もアメリカ映画とは違った演技である。
舞台の影響が強く、イギリスの演技は堅いが、それなりに伝わってくる。
田舎の町で、ストリップをやろうというのだから、なかなか舞台に上がる勇気が出ない。
普通の生活をしている人間が、自分の生活圏で、非日常を演技するのは大変な恥ずかしさがあり、ましてやそれが全裸ストリップだから無理もない。
日常生活と舞台という非日常が、意識の上で切れない。

　我が国では、公衆浴場という制度があり、そこでは誰でも裸になる。
少し前までは混浴だってあった。
また、お座敷芸として男性の裸踊りがある。
それに無礼講の場での、羽目外しは黙認されるし、むしろ人気が上がりさえする。
だから我が国では、男性ストリップはそれほど抵抗がないだろう。
しかし、公衆浴場やお座敷芸の歴史がない西洋では、男性の裸踊りは心理的な抵抗があるだろう。
そして西洋では、本音と建前の使い分けを許さないので、羽目外しは人格を疑われる。

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	劇場パンフレットから

　カズと友達のデイヴ、それにロンパー、ジェラルド。
彼等が中心になって、オーディションをやってあと二人を集め、合計六人が二週間の練習で舞台にたつ。
その練習の場面が、警察に見つかって、留置場へ入れられてしまう。
それが新聞沙汰になり、かえって広告効果満点。一度は計画を中止したが、前売りがさばけてしまい、計画が復活。
とうとう４００人の観客を集めてしまう。

　話の筋は大したことはないが、たくさん散りばめられた男性社会にたいする観察が面白い。
まず女性ストリップに関して、ストリッパーがどういう心理で出演しているかが語られる。
男性だから全裸になれない心理的な抵抗感が、完全に作られたものであり、それは男性中心社会の反映だという。
女性が見られるものとして、弱いものを演じているとき、男性は見るものから見られるものへの転換が困難だと知る。

　デイヴは自分が肥っていることを悲観して、舞台に出ることをやめようとする。
ところが、奥さんに舞台用のショーツが見つかってしまい、浮気かと勘違いして問いつめられる。
デブの裸なんて誰も見たくないだろうから止めたと言うと、奥さんは私が見たいと言って、デイヴを感激させる。

　カズがストリップをするようになるのは、ネイサンへの愛情のためであり、親子関係の確認がここでも大きなモチーフになっている。
離婚したが父親は無職、でもネイサンとの愛情は何にもまして強い。
最後になってびびったカズを、ネイサンがハッパをかけて舞台にあげる落ちがついている。
ネイサンの演技はいまいちだが、とてもかわいく、演技が上達すれば、人気がでるかもしれない。

　最近のイギリス映画は小粒ながら、良い企画で優れた映画が生まれはじめた。新たな時代を切り開くようなテーマこそ扱ってはないが、少なくとも同時代的なテーマではある。
ここ暫くはこの作業を続けるなかから、次のスッテプが生まれて来るだろう。

1997年のイギリス映画