タクミシネマ              エロティカ

   エロティカ    マヤ・ガルス監督 

TAKUMI−アマゾンで購入する
エロティカ [DVD]
 マヤ・ガルスという女性監督が、女性から見たセクシュアリティを画面に追求している。
それぞれの道で一家をなした10人の女性たちを、インタビューする形で映画はすすみ、女性たちの語る世界が画面に展開される。
10人の女性とは、元ポルノ・スター、「O嬢の物語」の作者、写真家、ラッパー、小説家など、性をめぐる表現を仕事にしてきた人たちで、彼女たちの発言は説得的でとても面白かった。

 10人とも、すでに一仕事をしてきた人たちだから、多くは40才を越えている。
しかしむしろ、それが良い。
若いうちは肉体的な新鮮さしかなく、セックスにしてもただ肉体的なぶつかり合いである。
それに対して、彼女たちは想像の世界に遊ぶことを知っており、想像力がセクシュアリティを支えることを知っている。
出演した女性たちは、美人とは限らないが、みなとてもきれいだった。

 近代に入ったとき男性の性は、すでに肉体を離れていたので、男性にとって性は肉体であると同時に、観念としても語り得た。
しかし、女性は自然な存在と見なされたので、女性自身の肉体から女性の観念が自由になることが出来なかった。

 そのため、女性にとっての性は、常に肉体を持ってしか語ることを得ず、若い肉体つまり繁殖に適した年齢がセクシュアリティと同一視された。
しかも、女性の性は男性によって、開発され規定されると見なされた。
女性が自らセックスを求めることは人格を疑われた。

 この映画に登場する女性たちは、肉体と性意識がすでに離れている。
自己の肉体と自己の性意識を、次元の違うものとしてみることが出来ている。
ここで男性の性のあり方と、女性のそれはまったく同じ状態に立ち至っている。
女性が自己の性を、他者として見始めているのだ。
彼女たちは、体を開かされる物としての性ではなく、自ら欲情し、観念する性となっている。

 すでに性革命を通り過ぎているから、女性は性的な欲望がないなどとは誰も言わない。
むしろ、女性の性的な欲望を素直に表現し、男性ともしくは同性との性的な関係を作ろうとしている。
表現者たちが多いので、自分の性に対する考えを、誰かに伝えたという欲求も強く、それはちょっと二律背反になっていた。

 女性たちは、性とは個々のものだと言いながら、性は解放されるべきだと主張している。
とくにアメリカの女性たちがそうだった。
それに反して、フランスの女性は個人的なものだという色彩が強かった。
もちろんそれは、「O嬢の物語」の作者はすでに90才だし、SMの女性はSMを個人的な趣味と言わざるを得ないだろう。

 アメリカ在住六人、パリ在住四人という内訳だったが、アメリカ人のほうが普遍指向が強いように感じた。
アメリカ人の女性たちは、自分の体験を企業化しようとしており、その姿勢には教えられるものがあった。
個人の体験をパッケージ化して、多くの人に知らせる、見せるという姿勢は、社会的により一層の刺激を生みあい、各人の力が高まる。
それに対して、フランス人たちは、あくまで個人的なスタンスにとどまり、個人の趣味という色彩が強い。
このあたりがフランスが、優れた理論を生みながら、女性運動の中心になれない原因でもあるだろう。

 インタビュー形式だから、物語性をもった映画としてみるものはあまりない。
それでも、照明が上手く、色がとてもきれいに出ていた。
それが出演する女性たちを、きれいに見せていた理由かも知れない。
とにかく、性は女性だけが特別なものを持っているのではなく、男性と同じものだと言っていることは、ほとんどの出演者たちの共通認識である。

 小さな映画館での単館上映だったから、お客さんはそれほどいないだろうと思って行ったら、150席くらいの映画館は満員だった。
客層がおかしな構成で、若い女の子がほとんどの中に、ブレザーを着た中年男性が交じっていた。
サラリーマンではなさそうで、何者たちなのだろう。
1997年カナダ映画。


TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

 「タクミ シネマ」のトップに戻る