タクミシネマ             ドライ・クリーニング

ドライ クリーニング   アンヌ・フォンテーヌ監督   

 フランスの田舎町で、クリーニング屋を営む夫婦ジャン=マリ(シャルル・ベルリング)とニコル(ミウ・ミウ)が、とあるナイトクラブに遊びに行く。
そこで出演していた、夜の女王というカップルと親しくなる。
姉と弟だが、二人とも女装して踊っていた。
その彼ロイック(スタニスラス・メラール)がクリーニング屋に洗濯物をだしに来て、彼らは親しさを増す。

 熱烈な恋愛結婚をしたジャン=マリ夫婦だったが、奥さんのニコラは平凡な毎日に耐えられなくなっており、弟のロイックにのぼせあがる。
それだけならありふれた話だが、旦那のほうも若いロイックに恋心を感じる。
ロイックの姉が、男とイビサへ行くので、夜の女王は解散。
ロイックは失職。
そこでジャン=マリは、ロイックに自分の店に住み込みで就職する事を提案する。
男と女の間はたちまち燃え上がって、奥さんのニコラはロイックと家出をすると言い出す。

 二人が家出をする直前、ロイックは旦那のジャン=マリを口説く。
内心彼に何かを感じていた彼は、それに応じる。
しかし、セックスの最中にロイックが言った言葉に怒り、そばにあったアイロンでロイックを殴り殺してしまう。
それを知ったニコラは家出を取りやめ、ロイックの死体を処理する。

 よく判らない映画である。
今の生活を捨てるかどうかは別として、平凡な生活に飽きて、新鮮な男に目がいくのは誰にでもある。
また男もバイセクシャルであれば、男に目移りしても不思議ではない。
この映画は、一体何を言いたかったのだろう。
若い男に舞い上がって家出する女を、描きたかったわけではあるまいし、その男を夫が愛したことを描きたかったのでもあるまい。

 夫が行為の最中、罵倒されて男を殺したことでもないだろう。
考えられるのは、男が死んだとなると家出を取りやめて、一人で死体処理に奔走した女の変心である。
そして、二人で共有する秘密を持って、互いに背反しながら生きていく不条理を描きたかったのだろうか。
いずれにしても、描きたい主題に画面を絞り込んでいないので、実に散漫な映画になっていた。

 とりわけ中盤まで、いや後半までといっても良いかも知れないが、のろい画面展開。無意味なショットが長く続く。
監督は感情移入しているつもりかも知れないが、観客は飽きてしまう。
ワンカットは6〜10秒で転換するべきで、それ以上の長回しは、よほどの緊張感がないと無理である。

 この映画はワンカットが長いので、必然的にカットの数が少なすぎる。
また、手持ちのカメラで撮っているせいか、画面が揺れてしまうシーンがあったり、照明不足と露出不適合で色が悪い。
ねぼけたような色は編集段階で、どうにかするべきである。

 フランスの監督たちは、ハリウッドと異なり、映画とは個人的な表現と考えているようだ。
だから、簡単なシステムで気軽に映画を撮っているようだ。
それは悪いことではないが、最終的に映画は監督のものであるにしても、組織で作るものである。
詩や絵画・小説のような個人的な営みではない。
フランスの監督たちは、観念をきちんと相対化するためにも、共同作業という面に気を使った方がいい。
でないと、この映画のように、技術的に低い物となってしまう。

 ジャン=マリのお母さん役をやった女性が、フランスの普通のおばさん風で良かった。
それにしてもフランスは貧しい。
いくら田舎町でも、主人公初め町の人たちの衣類が、実に質素である。
日本では、すでにあんな服は誰も着ていない。

 食生活と住宅は、以前と変わらない生活が保たれているかも知れないが、消耗品である衣類は国の経済を良く反映する。
その国の文化は、世代交代によって継承されるから、ジャンクフードを口にする世代が育てている子供たちは、繊細な味覚を保ているか判らない。
フランス人たちは自慢の食生活にしても、いつまでも美食とは言っていられないかも知れない。

 監督・脚本・台詞・原案と一人でこなした人物は、1959年生まれのアンヌ・フォンテーヌである。
才能を持った美しい女性だが、才能の表現のされ方に訓練が必要である。
1997年フランス・スペイン映画。


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