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CUBE(キューブ)    ヴィンチェンゾ・ナリタ監督

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CUBE [DVD]
 カナダの映画だが、サンダンスで好評を博したという。
シネヴィヴァンだけの単館上映だが、若い人で満員だった。
彼等の情報はどう伝わるのだろう。
評判が評判を呼んで、上映が延長になったらしい。

 6人の男女がまったく理由を知らされず、突然に立方体の連続した中に送り込まれる。
と言うより、ある時気がついたら、立方体の中にいると言ったほうが正確か。
コンピューターの中を思わせる立方体。
プリント基板を模したデザインの壁で囲まれた5メートル立方の立方体が、26ヶも縦横に積み重ねられた建物があって、その立方体からは隣の立方体へだけ移れる扉がある。
もちろん立方体だから、その扉は6ヶ所あるわけだが、立方体によっては人間を殺す様々な罠があり、不用意に隣に移るわけにはいかない。

 立方体のジャングルから抜け出て、人間社会へ戻るためには、次々に移動して出口に辿り着かなければならない。
その知恵を6人が出し合いながら、出口を捜す話だが、その間に仲間割れを起こして、彼等は次々と死んでしまう。
最後に外部に出ることが出来るのは、精神薄弱だと思われていた男性だけ。
しかも脱出した先は、真っ白で何もない空間で終わる。

 コンピューター社会を意識し、コンピューターに取り込まれる人間の存在を描いたものである。
この映画が出来た問題意識はよく判る。
コンピューターが人間から離れ、いつの間にか人間を取り込み、そこで人間はコンピューターに振り回され、生命さえも失っていく。
その過程で、人間の性格の裏表が現れて、平常では考えられない驚くことがおきる。
いわばコンピューターと人間の関係を描いた映画である。

 状況設定は面白く、特にキューブという題名の通り、均質な立方体の空間が連続している。
27番目の移動する立方体だけが、外部とつながっている発想は、コンピューターのインターフェイスを象徴したものであろう。
ハードとそれを動かすソフト、それが人間から離れて、しかも人間を取り込んでしまっている。

 コンピューターの中に人間を取り込むために、内部のセルが5メートル角に拡大されている。
機械的なスケールの拡大されかたには、不自然さが残るが、人間とコンピューターの関係を、こうした形で表したのは初めてである。

 状況設定の新規さは評価するが、人間描写は平凡である。
6人の人間が、男性4人、女性2人という設定は良いとしても、若い女性が数学的才能に恵まれ、男性がマッチョに描かれるのは、定型的ではないだろうか。
おそらく暴力的とも言える男性的な強さは、もはやマイナスだと言っているのだろうが、それが女性的なものの評価へとはつながらないだろう。
男性的なものを否定したとき、女性的な何を評価するのか。
そのあたりが弱いが、それは仕方ないことか。

 精神薄弱の男性が彼等の足手まといになったとき、置いていくことに女性が反対し、命がけで彼を連れていく。
その後その彼が、突然数学的な才能を発揮するのも、人間の形をしたものは同質だという宣言なのだろう。
こうした情況に、不自然であっても精神薄弱の人間を登場させるのは、いかにも若い人らしい優しい配慮である。
頭脳のあり方が今後の要であることがよく判っている。

 優秀な頭脳が存在すれば、それと同じ割合で必ず優秀ではない頭脳が存在する。
肉体支配の時代には、肉体によって等級付けされたが、頭脳支配の時代には、頭脳によって等級付けされるのは不可避である。
等級付けを許容できる状態へ納めるかが問題である。
そして等級付けを、人間性の評価と直結させないことである。

 登場人物の性格付けが、一見すると現状の人間像からは離れている。
ユニークであるように見えるが、それは単に現状の反対設定でしかない。
映画の原作者や監督は、おそらく若い作家だろうと思うが、状況設定に飲まれてしまって、人間観察が表面的で不十分になってしまったように感じる。
もちろんこの映画が新しいものであることは認めるし、意欲的な作品であることも認める。
しかし、映画が最後に問われるのが、人間描写だとしたら、若いなと言わざるを得ない。
ヴィンチェンゾ・ナリタ監督には、次回作にはおおいに期待しよう。
1997年カナダ映画。


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