タクミシネマ              バンドワゴン

バンド ワゴン   ジョン・シュルツ監督  

TAKUMI−アマゾンで購入する
バンドワゴン [DVD]
 田舎に住む音楽好きな若者が、ひょっとしたことから四人でバンドを組み、おんぼろワゴンで全米を回る話であるが、主題は教育である。
サーカス・モンキーというバンドのメンバー、リー・ホームズ、ケヴィン・コーリガン、スティヴ・パーラベッキオ、マシュー・ヘネシーと、バンドのマネージャーが主人公である。

 ドラマー役の青年は、優しいお母さんに育てられ、いまだに子供じみているが、音楽が大好き。
ガレージで、ドラムをたたきまくっている。
そこへ作詞作曲をするギタリストが登場し、バンドを組む話になる。
友達の中から、ギターリストとベーシストを探し出して、四人組のバンドができあがる。
そこに伝説の敏腕マネージャーが加わって、全米ツアーにでる。

 アマチュアバンドだが、そこそこに良い線を行っており、プロと紙一重のところにいる。
それが難しい。
下手ならメジャーになるなんて、考え違いを起こさないだろうし、本当に上手ければたちまちプロになる。
ボーダーラインにいるアマチュアバンドだからこそのエピソードを、全米を移動するワゴンに乗せて、画面に展開していく。
バンドを運ぶからバンド・ワゴンである。

 作曲作詞をしてきた青年は、音楽と結婚すると言ってある。
本当はアンという女の子に焦がれて曲を作ってきたが、メンバーには想像力で創っていたと言ってある。
アンは実在してないことになっているが、実はプラトニックな愛情をアンに捧げていたことが、途中で判る。
しかし、アンのほうは単なる友達だと思っていたことから、ドラマーに取られてしまう。

 映画は、四人の心の動きを追って進むが、注目すべきはマネージャーの存在である。
彼自身音楽の才能にあふれており、自分でもギターを弾いて歌を歌う。
それがとても上手く、最後にはレコード会社から契約を迫られるほどである。
しかし、彼は自分の楽しみとして音楽をやっているスタイルを崩さない。
それは彼の生き方であり、バンドのメンバーに対しても、その生き方を貫く。

 マネージャーはマネージャーであり、バンドマンではない。
だからマネージメントだけして、バンドの音楽的なことには口を出さないし、いっさい干渉しない。
移動中でも、彼は一人化学の辞書を読んでいる。
しかし、若い彼らが窮地に陥り、彼に助けを求めてくると、それには充分以上に応える。

 メジャーデビューして有名になりたい若者たちに、音楽が何であるかを無言ながら身をもって教える。
メジャーのレコード会社は、若いバンドたちを金になる素材としか見ておらず、彼等にとって音楽は金儲けの手段にすぎない。
だからどんなバンドでも売れるようにと、本人たちの音楽性を無視してひねくり回す。

 しかし、若い音楽好きたちには、音楽はお金以上のもので、自分たちの主張であり、生き方なのだ。
充分に力のあるバンドならいざ知らず、音楽が好きなだけの若者には、レコード会社は必ずしも良い存在ではない。

 マネージャーは、子供たちの音楽好きに共鳴し、行動をともにする。
そして、本人たちが自立するように、環境を整える。
そこで立つか否かは、本人の問題だと突き放す。
この視点は、メンバー同士の間にも流れており、アンに振られたギターリストが音楽をやめると、ギターを線路の上に置いて、列車にひかせようとする。

 彼がやめると、バンドは解散である。
メンバーの一人は、ギターを線路から取ろうとするが、二人は他の人間がとっても、彼に音楽を続けさせることはできないから、自分で取らせろと言う。

 自立は自分の足でするものである。
他の人間は環境を用意することはできても、立つこと自体を手助けはできない。
自分のやりたいことがどれだけ好きか、すべてはそれにかかっている。
好きなことをやれ。当たり前のことながら、このメッセージが痛いほど伝わってくる。

 最初は、アマチュアバンドが出世していくロードムービーかと思っていると、その主題はまったく別である。
バンドのメンバーとマネージャーの絡みを描いた教育映画である。
マネージャーという大人が、子供の才能と音楽好きを信じて、出したい手を出さず、それでいて離れずにいて見守る。
突き放しているようだが、これが一番難しく、愛情にあふれた態度である。

 大人は子供たちのやることが、まどろっこしくて見てはいられないから、ああせいこうせいとつい口を出してしまう。
しかし、大人が口を出せば、それは今の価値基準から言っているにすぎない。
子供の将来には役に立つかどうか判らない。
口出しすることによって、立つ力を奪う。まずこれで、自立の芽を摘んでしまう。
それでいながら、子供が本当に困ったときには助けない。
これでは子供は育ちようがない。

 ジョン・シュルツ監督は、子供たちの才能を信じている。
子供たちの才能をのばすために、大人ができことを示すために、この映画を作ったように思う。
1997年アメリカ映画。


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