タクミシネマ             アフターグロウ

 アフター グロー  アラン・ルドルフ監督

 ジェフリー(ジョニー・リー・ミラー)は生まれもよく、実業家としても若くして成功し、家には美人の奥さんマリリン(ララ・フリン・ボイル)もいる。
何不自由ない身だが、なぜか心にすきま風が吹いている。
家に帰っても子供を欲しがるだけの奥さんとは、まったく話が合わない。
そのため中年の秘書に、心を動かされてさえしてしまう。
子供が欲しいマリリンは、子供ができることを願って、子供部屋を作りたいと言い出す。
ジェフリーがそれを認めると、さっそく彼女は便利屋を雇って改修を始める。

 便利屋として登場するのが、ラッキー(ニック・ノルティ)である。
かれは気ままに便利屋をしているが、なかなか女性にもてて、仕事先の女性とベッドサービスまで付き合っていた。
ジェフリーが振り向いてくれないマリリンは、他の男から精子を貰っても子供を作ると宣言し、ラッキーと浮気を始める。
肉体労働者のラッキーから、ジェフリーにはない逞しさを感じ、単なる精子提供者としてではなく、継続的な不倫へと進んでいく。

アフターグロウ [DVD]
 
前宣伝のビラから

 ラッキーの奥さんフィリス(ジュディ・クリスティ)は、かつては有名な俳優だったが、いまではお声がかからず、昔の栄光にすがって生きていた。
彼女は何年かまえに妊娠し、娘を産んだ。
仲間の俳優との浮気でできたのだったが、彼女は自分たち夫婦の子供として育てていた。
夫との精神的な繋がりを信じていた彼女は、頃合いを見計らって、夫のラッキーにそのいきさつを打ち明けると、案に相違して彼は逆上する。
彼が大声でわめいたところ、それを娘に聞かれてしまい、切れた娘はそのまま家出してしまう。
娘がモントリオールに引っ越したと聞いた彼等は、娘を追ってモントリオールに移住する。
娘の家出が2人のトラウマとなったが、それでも2人は傷を舐め会いながら、いまは上手く一緒に生活している。

 ラッキーとフィリス、ジェフリーとマリリン、この2組の夫婦が互いに入れ替わって話が進む。
マリリンがラッキーと浮気をしているとき、ジェフリーはフィリスを誘って、得意先との接待にでかける。
若いジェフリーにたいして、高齢者の魅力を充分にもったフィリスは、得意先の男性をも魅了する。
フィリスには若い女性が束になっても敵わない魅力がある。
そうであっても、最後には元のさやに収まって、映画は終わるのだが、人間描写が素晴らしく奥行きのある映画に仕上がっていた。

 この映画で特筆すべきは、まず何と言ってもフィリスを演じたジュディ・クリスティだろう。
とびっきりの美人というわけではないが、とてもいい雰囲気に歳をとっており、味わいのある人間を演じていた。
かつての栄光の日々と平凡な今。
夫を信じていたので、打ち明けた娘の話。
そして娘に去られた心の痛手。
しかし、今でも男性を引きつける魅力。
こうした年齢の年輪が幾層にもかさなって、彼女の魅力がしっとりと醸し出される。
ラッキーとマリリンの子造り作戦を知って、一度は切れるが、やはり長年連れ添ったラッキーとの間柄は馴染みのものだ。
そうした喜怒哀楽を、しっかりうちに秘めて今の彼女がある。
絶品の演技だった。

 上品とは言えないラッキーも、それなりに人生を楽しんでおり、ニック・ノルティは微笑ましいスケベオヤジを演じていた。
子供の一件があったにせよ、フィリスは明らかに彼よりランクの上の人間である。
便利屋風情のラッキーにはすぎた奥さんであることを、充分に彼も知っている。
互いに自由に生きながらも、ラッキーはフィリスの手の内で遊ばせて貰っている。
そうした気分が良く伝わってきた。

 それにしても、人間の格というか雰囲気というのは、否応なくできてしまう。
それが良いとか悪いというのではなく、人間の品性といったものが顔に出てくるはいかんともしがたい。

 ところで、ジェフリーについてはちょっと肯けない。
生まれの良い彼が、実業家として成功するのは良い。
そして、今の奥さんに不満だというのもよく判る。
しかし、実業界で成功を願う男性が、マリリンのような女性と結婚するだろうか。
マリリンの話題といえば、自分たち二人のことばかりで社会性はまったくない。
しかも、愛情の証として子供を欲しがっている。

 だいたい現代社会において魅力的な女性が、専業主婦として家庭にいるとは思えない。
マリリンはスタイルこそ良いが、白痴美的な顔で、生きるガッツをまったく感じさせない。
1960年以前なら、結婚相手として申し分のない女性だったかも知れないが、今や彼女のような女性はまったくもてないだろう。
マリリンような女性と結婚する男性が、実業界で成功するとは思えない。

 ラッキーとマリリンの出会いは自然だとしても、ジェフリーとフィリスの出会いは不自然である。
親子に近いほど年齢が離れているにもかかわらず、ホテルのバーでナンパとはちょっと無理だろう。
またジェフリーの部下だった男性が、ゲイであることをカムアウトして、彼のもとを去っていくシーンがあったが、あれはいったい何を意味していたのだろうか。
些細な点だが、脚本の展開上でちょっと気になった。

 ジェフリーの中年秘書も、若い上司であるジェフリーに振り回される。
アフターグローというタイトル通り、すでに盛りを過ぎた人間の魅力が、充分に描き出された映画である。
人間に対する懐の深い優しい目が行き届き、良い映画を見た充実感が広がってくる。
この映画に登場する大人たちは、とても姿がよい。
歳をとるのは決して悪いことではない、そう言っているように感じさえする。
監督はアラン・ルドルフだが、プロデューサーをつとめたロバート・アルトマンの趣味が画面の端々に感じられた。
まさに大人の映画である。
このすばらしい映画が、なぜレイトショーでの上映なのか理解に苦しむ。
撮影が栗田豊通である。

1997年のアメリカ映画。


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