タクミシネマ                  ウエルカム ドールハウス

ウエルカム ドールハウス   トッド・ソロンズ監督

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ウェルカム・ドールハウス [DVD]

 この映画の主人公ドーン(ヘザー・マタラーゾ)のような女の子は確かにいる。
ブスで成績が悪く、クラスの誰からも馬鹿にされ、心が優しいかというと優しくない。
自分が馬鹿にされているから、その辛さがわかれば、他人には優しくしてもいいはずなのに、他人が自分にするのと同じことを他の人にもしてしまう。
人は教育されて育つ。救いのない女の子を主題にした映画である。

 中学一年生のドーンは、三人兄弟の真ん中。
兄のマーク(マシュー・フェイバー)は、優秀でまじめ。
下の妹ミッシー(ダリア・カリーニナ)はかわいくてバレエが上手い。自分だけが何のとりえもない。
お母さんも他の兄弟ほどには、可愛がってはくれない。
かわいそうな女の子なのだが、トッド・ソロンズ監督は現実にあるがままに描く。
いじめられる子が精神的に優しいかというと、彼女自身がまた意地悪である。
だから、観客も彼女に感情移入しない。

 童話の世界では、継母や兄弟たちにいじめられる子供が優しくて、いじめる者を鬼のように描く。しかし、現実はそんなことはない。
虐めれれば誰だって気持ちが曲がってくる。
自分が虐められれば、誰かを虐めたくなる。
虐められる辛さを知って、他人に優しくなど出来はしない。
ましてや子供である。
虐めが虐めを呼ぶのは当然である。
そうした現実をこの監督は、冷静に見ている。

 ドーンは決してかわいい子供ではない。
しかし彼女は、自分の主張を持っている。
ブランドン(ブレンダン・セクストン)からのアプローチだって、嫌なものは嫌だと言う。
我が国では、またそれが可愛げなく見えてしまうだろうが、自分の主張を持つことは良いことである。
たとえそれが間違っていても、はっきり主張すれば間違えていることに気づく。
間違えたら直せばいい。
主張しないと、間違えているかどうか自覚できない。
自覚のないところに、発展はない。

 ドーンが母親の言うことをきかないとき、食後のデザートが彼女にだけ与えられない。
彼女の分をすかさず妹が欲しいという。
母親はやや躊躇いながらも、他の兄弟に分けてしまう。
これは悲しい場面だった。父親が厳父だった時代、子供たちは母親を防波堤にした。
母親が子供と密着した愛情を確保した。

 しかし、父親のカゲが薄くなった現代では、母親の逸脱を止める者がいない。
社会的な訓練を欠いた母親の恣意的な感情に子供は振り回される。
また、家族が多かった大家族の時代には、祖父や祖母が子供たちの隠れ場にもなった。
それが心のバランスを回復させた。

 愛情に欠けた教育を受けてくると、大きな傷を心におってしまう。
虐待された子供は、自分が親になって虐待する。
愛情が大切だとは誰でも知っているが、その表現の仕方は誰でも知っているわけではない。
ドーンが思春期を迎え恋人ができ、恋人から充分に愛されるとき、彼女の心の傷はいやされるだろう。
人間関係が少なくなった今日、恋人が登場するまではドーンには安逸なときは来ない。

 「welcome to the dollhouse」とは皮肉な題だが、監督は決してドーンを否定的には見ていない。
自立する現代の女性の子供時代を冷静に描いている。
 1996年アメリカ映画


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