タクミシネマ                  フューネラル

 フューネラル    エイベル・フェラーラ監督

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フューネラル〜流血の街〜 [DVD]
 1930年代のアメリカ、イタリア系のギャングたちの家族愛を主題にした映画である。
不景気のさなか会社側と労働者がもめている。
そのあおりを喰らって、労働者が次々と解雇されていた。
貧困はコミュニズムを呼ぶ。経営者は組合対策に、ギャングを使おうとしていた。

 クラブを経営するギャングのレイ(クリストファー・ウォーケン)、チェズ(クリス・ペン)、ジェニー(ヴィンセント・ギャロ)は、仲の良い兄弟だった。
レイとチェズには子供もいるし、温かい家族があった。
まだ若い独身のジェニーは正義感が強く、ギャングでありながら組合や労働者に傾倒し、経営者には反感をもっていた。
仲の良い兄弟だったが、それだけは紛争のもとだった。
そんなとき、ジェニーはギャング仲間のガスパーともめ、しかもガスパーの奥さんと肉体関係が続く。

 イタリア系ギャングの世界では、仲間の奥さんに手をだすことは御法度である。
ガスパーはジェニーを殺す。
その葬式の場面から映画は始まる。
いくら他人の奥さんと密通していたとしても、殺すことはないだろうと、兄弟たちは憤る。
そのあたりが、重苦しい葬式の雰囲気と絡んで、上手く展開されてくる。
映画は葬式の場面と行きつ戻りつしながら、ジェニーや兄弟・家族たちの背景を描いてくる。
ジェニーの死の原因が何か、映画の進行につれて観客にだんだんと判ってくる。

 やや暗く密度の高い画面が、若者が死んだ葬式の鬱屈した雰囲気をよく伝えてくる。
ゆっくりとした映画の進行は、アメリカ映画としてはやや緩慢な感じがするが、この主題とはよくあっている。
22才のジェニーは、末っ子でわがままだけれど、それがゆえにみんなから可愛がられていた。
その彼の死である。
人々は、人生の理不尽に打ちのめされている。悲しい葬式である。

 ギャングたちは今までも殺しあいをしてきた。
女性たちはそれが耐えられない。
レニの奥さん(イザベラ・ロッセリーニ)は、もう殺しあいは終わりにしたいと言う。
ギャングたちはそうはいかない。
ジェニーの死は悲しいが、加害者の探求と復讐はまた別である。
ガスパーを問いつめるが、彼は知らないと断言。
しかし、ガスパーの犯行に確信をもったレイは、ガスパーの家族の前で彼を殺すように指示。

 そこへ真犯人とおぼしき若者が捕まるが、彼は殺してないとレイは知る。
しかし、その言葉に嫌気がさして、殺してしまう。
愛情が死を呼び、人々の緊張が高くなる。
人は良いけど単純だったチェズは、とうとう切れてしまう。
彼は兄弟や家族たちを心から愛していながら、「兄弟がなんだ」と言いながら発砲。レイを含めて男三人を射殺し、自分も銃口をくわえて自殺してしまう。

 家族をめぐるきわめて哲学的な映画で、素直に肯定できない今日の家族関係が主題であることが判る。
今時、兄弟の復讐というのでは、主題がもたない。
むしろ、愛情にもまれて復讐する者たちの心理を描きたかったのだろう。
それが家族愛と絡み、兄弟愛と絡み、狂気とか分裂が結論なのだろうか。
アベル・フェラーラ監督の映画手法は、密度の濃い画面が、日常性とそれに密着した狂気を含んだ日常性の裏側を、よく表現していた。
映像の表現者としては、彼は力のある監督だと思う。


1996年アメリカ映画。

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