タクミシネマ                  私家版

 私家版     ベルナール・ラップ監督

 かつて自分も作家として生きようとしたイギリス人エドワードは、今では出版社を営んでいる。
彼には古い書類を作るという隠れた特技があり、ときおり書類や書籍の贋作を手がけていた。
しかし、最近では贋作の注文があっても、断っていた。
そこへ知り合いの作家ニコラが、新しい小説を持ち込んできた。

 その新作は、エドワードがチュニジアで暮らしていた30年前を舞台にしている。
偶然にも彼の恋人を強姦したのが、ニコラだったことがその作品からわかった。
チュニジアでの顛末を愛情物語に仕立てたものだが、この小説は実に素晴らしい作品に仕上がっており、彼は感服する。
そして、フランスの出版社にも紹介する。
と同時に、複雑な心境が芽生える。

 その作品は、フランスでは文学賞を受賞するが、彼はニコラを許せない。
恋人を強姦したこと、その後、恋人は自殺したことが、第一の理由だが、それだけではない。
それは30年も前のことである。
声高には描かれていないが、むしろ筆を折った自分への悔悟と、それまで凡作しか書かなかったニコラが、突然に受賞作を書いたことへの嫉妬の、両者が入り交ざった複雑な心理が、彼に復讐を決意させる。

 文学賞を受賞した作品を、1938年に出版した書籍のコピーであるかのように、でっち上げるのである。
まず、得意の贋作で、コピーを6部作る。
そして無名だったが、実存した作家がそれを書いたように、作者の経歴も充分に調査する。
贋作を古本屋などにも配布して、いかにもそれが昔からあった本だったように工作をする。
そして、フランスの友人批評家に、剽窃だと匿名の手紙を送る。
それを受けた批評家はニコラを告発する。

 この批評家が実はニコラの昔の恋人だったが、今ではむしろ嫌っていた。
そこで徹底的にニコラを突き落とすべく、裁判が始まる。
愛情の裏返しが憎悪である。
ニコラは罠にはめられて、剽窃を自分でも認めざるを得なくなる。
そのため、彼はとうとう自殺し、エドワードの復讐がなるという結末である。
盗作が絶対に許されず、剽窃は作家生命の終わりだという当たり前の倫理が生きている西洋諸国では、贋作は大変なスキャンダルである。

 古典的なサスペンス映画で、結末は初めからわかっており、特別の謎解きがあるわけでもない。
しかし、エドワードの緻密な罠の仕掛けと、それへの周到な準備。
チュニジア時代の思い出や、恋人の妹の娘がエドワードに恋心を寄せたりと、話も盛りだくさんでなかなかに面白くみることができた。
古書の贋作など、いかにもイギリス的な場面もあり、のんびりとした映画である。

 映画の中は、ゆっくりとした時間が流れ、安心してサスペンスに浸れる。
主人公エドワードを演じるテレンス・スタンプの押さえた演技もはまっていたし、イギリスの習慣もうまく映像化されており、とても楽しめた。
新たな時代の息吹はないが、こうした映画はこれでいいのだろう。
上質な古い小説を読んでいるようだった

 1996年のフランス映画だというが、むしろイギリス映画といった方がいい感じである。
渋好みの地味ながら、それなりの雰囲気があった。
1996年フランス映画。


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