タクミシネマ                   リチャード三世

リチャード V     リチャード・ロンクレイン監督

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リチャード三世 [DVD]
 リチャード・ロンクレイン監督が1930年代のイギリスにあてはめて、シェークスピアの原作を映画化した。
原作を知らなくても充分に楽しめるが、原作を読んでいた方がなお楽しめるのは当然である。

 リチャードはヨーク家の末弟として、左手が不自由で、しかも左足を引きずるという障害者として生まれた。
当時のイギリス王室は、反対派が主導権を握っており、彼らは陽の目を見ない派閥だった。
しかし、ヘンリー国王とその息子エドワードの暗殺によって、王権を収奪する。

 リチャードの働きが大きかったが、エドワード四世が長男ということで国王になった。
彼より上位の王位継承権をもつ次男もおり、長男には三人の子供がいて、リチャードの王位継承順位は低かった。
しかもリチャードは、エドワード四世の妻エリザベス王妃(アネット・ベニング)から、ひどく嫌われていた。

 リチャードは自分が王位につくために、何人もの身内を殺していく。
政治家や、実業界をも味方につけて、彼はとうとう王位を手にいれる。
しかし、あまりにも多くの人を殺し、しかも部下への報酬約束を守らなかったので、彼についていく人間はいなくなる。
彼に反対する身内が固まり、リチャードを打倒するまでを映画は描く。

 1930年代のイギリスの状況を知っていれば、これが誰で、あれが誰でと、映画に重ねて楽しめるのだろうが、その知識がないので残念ながらそれはできない。
けれども、愛情をもって育てられなかった次男が、劣等感の塊になって成人する。
彼はウイットに富んだ優秀な権力欲に溢れた軍人で、彼が政治力をもったときの展開が恐ろしくも、痛快に描かれる。悪の美学である。

 リチャードに父ヘンリー国王と夫エドワードを殺された美しい妻アン(クリスティン・スコット=トマス)は、当然のことながら、最初は彼を憎み蛇蠍のごとくに嫌う。
しかし、彼から強引に求婚されると応じてしまう。
この映画は、リチャードがその時々の心境を、観客に向かって話すかたちを取っている。
これが、皮肉たっぷりでありながら、現実をついている。

 しかもそれは、人の心の弱さをついた恐ろしい台詞である。
彼は「煽て上げれば、女はなびくものさ」と、楽しげに教えてくれる。
後でアンは、彼と一緒にいてベットでは一時も心が休まらなかったと告白するが、実態は夫婦であることには変わりない。
弱虫は状況に流され、自己正当化のために後になって弁解する。

 リチャードに父親と夫を殺された女性ですら、求婚されれば応じる。
だから、世の中だって同じものだとばかりに、次から次へと王位継承者を殺して、とうとう王座を手にいれる。
彼は殺人に酔って、「殺人はアートだ」と信じている。

 悪意が善意で包装されて、強引に突き進むとき、心から善意に溢れる人たちはまったく抵抗できない。
悪意が猛威をふるって、大きな犠牲がでて初めて、やっと善意の人たちも立ち上がる。
けれども、その決着をつけるのは、やはり悪意が使うのと同じ暴力である。
このあたりは、ナチの台頭と重ね合わされているだろう。

 貴族という小さな身内たちが支配していた最後の時代である。
当時の貴族たちの生活が再現されており、アメリカの映画とはまた違った意味で、服装や建物、車など見事である。
くどいまでに重厚で、豪華な装飾に白人たちの文化を感じた。
主人公リチャードを演じたイアン・マッケランは、悪役を実に楽しそうに演じて、達者な役者である。
ところで、次男のクラレンスがロンドン塔に幽閉されたのは、何故だったんだろう。
1996年イギリス映画。


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