タクミシネマ                  狼たちの街

狼たちの街    リー・タマホリ監督

 太平洋戦争直後のロス・アンジェルスが舞台である。
マックス他三人の刑事が、独自の強烈な正義感に基づいて、ロス・アンジェルスの警備にあたっている。
シカゴから来たギャングを令状なしで逮捕し、崖から突き落としてしまう。
ギャングたちに、LAに来るなと言う警告なのだが、この刑事たちの正義観と無法ぶりがまず描かれる。
しかし、この話しは、本筋とはまったく関係ない。

 住宅の開発現場で、ある女性が奇妙な死体で発見される。
体が地面に半分もぐり込んで、骨が粉々になっている。
建築重機でつぶしたのではない。
死因不明。
彼女は高級売春婦で、原爆の開発をした軍の将軍などの、エリートたちを客としている。
しかもこの女性は、マックスとも恋愛感情を交えた関係があった。
原爆の秘密を知ってしまったこの女性は、将軍には内緒でアメリカ軍の将校によって、飛行機から突き落として殺されたのだった。

 高級売春婦の親友だったゲイの男性が、8ミリ映画をとるのが趣味で、彼女の姿と一緒に将軍も撮していた。
また、彼女が相手をした客との姿態も、隣の部屋から隠れて撮影していた。
そのフィルムのなかに、国防秘密が撮影されたことに気づいた将校は、男性の家を襲ってフィルムをすべて盗む。
現像にだしていたフィルム三本だけが、彼の手元に残る。
親友だった女性が殺されたり、自宅が荒らされたり、身の危険を感じた彼は、マックスに保護を求める。
危険の証明として、そのうちの一本をマックスの元に送ってくる。

 マックスは無法な刑事だが、健全な家庭人でもあり、奥さん以外の女性とは関係がないことになっている。
しかし、送られてきたフィルムには、彼の姿態も写っていた。
彼は、売春婦との関係が明らかになることを恐れ、平常心を失っていく。
刑事が保護したはずのゲイの男性も殺され、軍はfbiや政府から手を回して、マックスの手元にあるフィルムを求めてくる。
軍がマックスの女性関係を奥さんに知らせたので、夫婦関係が破綻してしまう。
しかし、マックスは刑事として、女性殺人の犯人を追ってアメリカ軍に入っていく。

 原爆開発の過程で、放射能に犯された人たちが生まれ、彼らが隔離されていることや、将軍自身もガンであることなどが描かれる。
科学者でもある将軍は、進歩のためには犠牲もやむを得ないという。
アメリカ軍をはじめとする政府機関と、地方警察の対立がおもしろい。
日本なら政府と対立する地方警察など想像もできないが、セルフディフェンスのいかにも自治の国アメリカの話しである。
アメリカも現在では、中央政府に巨大な権力が集中しているが、この映画にはアメリカの建国精神と地方自治の来歴が見える。

 1950年代には、核家族が健全に機能していた。
工業社会が全盛期で、古きよき時代がしのばれて、それがあらためて新鮮だった。
工業社会までに、様々な形式が完全に確立しており、人はそれに添って生活していた。
自然との結びつきがあったから、人間たちは実に堂々としていた。
それにしても、子供のいないマックスの奥さんは、毎日何をして暮らしていたんだろう。
核家族に子供がいないと、女性は何もすることがない。
マックスが浮気をして、奥さんは「私の心は壊れたまま」と言うが、経済力のない彼女は離婚できない。

 この映画の見所は、なんと言っても、1950年代のファッションや車たちである。
この時代、男たちは自らの生き方に、なんの疑問も感じていなかった。
だから、男性は仕事、女性は家庭だった。
そして、終生の一夫一婦関係が、強固にできていた。
男性と女性が、補完関係にあった。
すべてが、男女の対関係を反映しており、男性は男性性を、女性は女性性を強調した服装であった。
それからみると、現代の服装は、性による違いがない。

 車は流線型がはやっている時代で、アメリカの国力が上昇期だった。
鯨のように大きな車がたくさん登場していた。
すでに博物館入りしているだろう車たちを、どこから調達してくるのだろう。
明らかにB級映画だが、丁寧に作られた渋い映画だった。
「狼たちの街」とは、どういう意味なのだろうか。
原題は違うのじゃないかと思う。原題は「モルフォランド フォール」でした。
1996年アメリカ映画。


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