タクミシネマ                  モハメド・アリ かけがえのない日々

ムハマンド アリ    レオン・ギャスト監督

 カシアス・クレイの名前でオリンピックで優勝してから、プロに転向。イスラムに改宗し、徴兵拒否によりチャンピョン剥奪。
五年の服役。出所後再度チャンピョンになる。
彼の伝記映画である。


 アリは、もちろんボクサーとしても優れていたが、それ以上に彼の生き方が感動的である。
オリンピック優勝からプロに転向するまでは、単なるおしゃべりな男だった。
しかし、黒人であることに目覚め、黒人の立場や置かれている状況を考え始めてからは、現代の偉人に入れてもおかしくない行動である。

 まず、徴兵拒否で五年間の服役。
これは誰にもできることではない。
戦前の日本と比べるのは少し難しいが、それでも国家の命令を拒否するのは、どこの国でも本当に難しいことである。
映画の中で、「ベトコンと戦うだって、奴等は俺たちに何も危害を加えてないじゃないか」と彼は言うが、この意見はまさに当時のケネディたちが言っていたことである。
ケネディは言うことと、やったことは違ったが。

 五年のブランクのあとで、復帰するが、それがベルギー領コンゴ現在のザイールの首都キンサシャで行われる。
当時は、バンドン会議後でありアフリカやアジアが脚光を浴びており、ザイールでもクーデタで政権をとったモブツが独裁的な政権を作っていた。

 なぜアフリカで行われたのかの説明は、あまり丁寧になされていなかったが、今から見れば独裁政権への肩入れは大いに問題だった。
しかし、当時は民族独立が謳われていた頃であり、しかもアメリカ国内の黒人独立運動と連動して、アフリカが黒人の故郷だったとみなされていた。

 復帰直後の試合前、強いチャンピョンのフォアマンへのおびえなど、よく心理的な面が描かれていた。
誰もアリの勝利を予想してはおらず、そのなかでアリは冷静に試合を進める。実に優秀な男である。

 この映画は、おそらくアリがお金を出して、もしくは企画を出しているのではないか。
彼は今やパーキンソン病で大変らしいが、黒人解放には真から心を砕いており、その力になることを自らに課しているようだ。
そのための宣伝映画だろう。もちろんアリはスーパースターに描かれているが、彼のメッセージはよく伝わってくる。

 わが国なら単なる売名行為と見られかねないが、発言する人間を歓迎するアメリカの風土とアリの行動はよくあっている。
当時は黒人差別が激しかったので、政治の分野に進出することは難しかっただろうが、今なら政治家になっていたと思わせる。
1996年アメリカ映画。


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