タクミシネマ                   グリッドロック

グリッド ロック
  ヴォンディ・カーティス・ホール監督 

 アメリカの若者のイライラを画面にたたきつけた映画で、その気持ちは痛いほど伝わってくる。少ない予算の中で、良くやっている。

 デトロイトに住む、黒人男性のスプーン(トゥパック・シャクール)と、白人男性のストレッチ(ティム・ロス)それに黒人女性のクッキー(タンディ・ニュートン)の三人は、バンドを組んでいる。
クッキーが音楽にのせて詩の朗読をし、二人がベースとキーボードで伴奏。
売れない彼等にもレコード会社が、初めて声をかけた。

 そんな日々、クッキーがオーバー・ドーズで意識不明になる。
二人は慌てて病院に連れていこうとするが、彼等の姿を見たタクシーは停まらない、黒人街の危険な場所のため救急車は来ない。
何とか病院にかつぎ込むが、受付でも冷たい対応。
かろうじて入院できるが、彼女は意識不明のまま。

 クッキーを病院に残して、スプーンは麻薬を止める決意をする。
リハビリテーション施設に行くが、健康保険証がないと駄目と断られる。
それを取ろうとするが、どこもお役所仕事で来週だとか来月だとか言う返事。
さんざんたらい回しされたあげく、やっぱりリハビリは受けることはできない。

 その途中で、本人は知っていながら秘密にしていたのだが、ストレッチがHIVの陽性者だと分かったり、麻薬売買の絡みから売人から追いかけられたり、殺人犯に間違えられたり、とにかく彼等の思うとおりにならない。

グリッドロック [DVD]
 
劇場パンフレットから

 音楽の才能がありながら、なかなか世に出られない彼等のイライラが良く伝わってくる。
ドロップアウトする映画は、すでにたくさん作られた。
この映画の捻りがあるところは、ただ世に出られないモヤモヤを描いているのではない。
麻薬を止めようとしたときの役所の対応、つまり正義の方向をめざしても、一度堕ちてしまうと、簡単には這い上がれない社会の仕組みを描いていることである。
ルールはルールとして厳として存在し、個人の気ままを許さない。

 工業社会に入って以降、労働と学習が分離し、労働の支えがなくなった分だけ、生きる手応えがなくなった。
しかも、情報社会では学習が一生続くために、青春のイライラは成人へと長引いてきた。
彼等も何がイライラの元だか自覚できない。
ただ自分の生きる手応えがないのである。
それが麻薬へと短絡するのだが、麻薬から立ち直るにも、社会的な秩序に従わなくてはならない。

工業社会の秩序が破綻した今日、彼等の悩みは解決しようがない。
それでも何とか生きなければならない。
その出口の無さを、ヴォンディ・カーティス・ホール監督は描いていく。

 自分で脚本も書いたこの監督は、俳優だったらしく、自らもこの映画に出演している。
しかも、この脚本は彼の体験が相当に反映されているらしい。
スプーンを演じたトゥパック・シャクールが、存在感がよく、いい目をしている。
遠くから撮る時の歩き方が、体をゆすって良い雰囲気だった。
実際にも彼はラッパーだったが、余りにも攻撃的な生き方のために、敵も多かったらしい。
実生活でも25歳で殺されてしまったとか。  

1996年のアメリカ映画。


TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る