タクミシネマ                    アメリカの災難

アメリカの災難     デヴィッド・O・ラッセル監督

 子供が生まれたけれど、なんだか落ちつかない毎日を送るメル(ベン・スティラー)は、その原因を自分が養子であることに求める。
そこで、自分の血縁の親を捜し始める。
養子縁組協会にいくと、自分の血親が簡単に判った。
養親に血親捜しの決意を話すと、自分たちが親として失格かと悩む。
自分の血親を捜すことから、アメリカの現状を批判的に、ただし肯定的に描いたコメディーである。

 血親はサンディエゴにいると分かり、メルは妻ナンシー(パトリシア・アークエット)と子供そして養子縁組協会から派遣された美人の精神科医ティナ(テア・レオーニ)の四人で、ニューヨークを出発する。
サンディエゴの女性は人違いで、本物はミシガンにいると判る。
メルとティナのあいだが、怪しくなりながらミシガンへ。
ミシガンにいたのは形式上の父親で、実の両親が刑務所に収監されていたから、書類上でだけ父親になったのだという。
血縁の両親はニューメキシコにいると判る。

 
劇場パンフレットから、主人公の動いたルート

 メルはこの男からトラックの運転を教わろうとすると、郵便局を壊してしまい、FBIに逮捕される。
FBI捜査官がナンシーの高校の時の同級生。
二人は怪しい関係になりそうになる。
捜査官はバイセクシャルのゲイで、相方は一緒に行動している捜査官。
ナンシーがゲイの二人をニューメキシコ行きに誘ったことから、六人での旅行になる。

 ニューメキシコにいる血縁の両親は現役のヒッピーで、表向きは芸術家だが、いまでもLSDをつくっている。
FBIの捜査官にLDSを飲ませてしまい、LSDの密造がばれる。
あわてた血縁の両親はメキシコへ逃亡しようとする。
そこへ養親も登場し、血親と間違ってLSD密造で逮捕されたり、FBI捜査官はハイになったりと大混乱となる。

 プライバシーのないB&Bよりもモーテルがいいとか、情報社会に入りつつあるアメリカでも、古い社会の習慣も残っていることがうかがえる。
そして、ニューヨーク、サンディエゴ、ミシガン、ニューメキシコと、同じ国でありながら、全く異なった様相さえ見せる。
アメリカには価値がたくさんあると、さりげなく画面に流す。

 メル夫婦、養親、間違いだった母親、間違いだった父親、血親、ゲイ夫婦、精神科医など、いかにも現代アメリカを象徴する人間を、より誇張して登場させる。
人種、地域、世代、階級などを上手く反映させて、いかにもいそうな人たちで、アメリカの混乱が良く見えてくる。
しかしD・O・ラッセル監督は、この混乱を否定しない。
ごちゃごちゃで災難だらけだけれど、それはそれでいいじゃないか。
これがアメリカであり、異質な人間が精神的なつながりよって、社会をつくるのが現代だと言う。

 レンタカーは白のトーラスばかりという同質な工業社会でありながら、60年代から90年代の象徴的な人間関係を登場させ、如何に人間が多様化したかをみせる。
その人間を決して否定することなく、誰にも同じ距離をとりながら、やや皮肉っぽくブラックなコメディータッチで描く。
家族とは血縁ではなく、精神的なつながり愛情がすべてだと結論づける。
生みの親より育ての親という結論は、「バード・ケージ」と同じである。

 アメリカを愛し、アメリカに愛情を捧げながら、アメリカを揶揄するという自虐的なコメディーがつくれるようになった。
超一流の映画ではないが、自分を洒落のめす大人の映画を作れるようになったアメリカ。
大いに笑わせてくれたこの映画からは、もはや大人の風格すら感じる。
原題は「flirting with disaster」だが、「アメリカの災難」は上手い訳である。

1996年のアメリカ映画


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