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ファースト・ワイフ・クラブ 
 ヒュー・ウィルソン監督

 同じ年にそろって大学を卒業した四人の女性は、良き男性をつかまえて、それなりに上手くやってきた。
しかし、一番上手く行っていたシンシア(ストッカード・チャニング)は離婚。
前夫が再婚することを知って、アパートのベランダから飛び降り自殺をした。
その葬式で再会した三人は、互いに話をしてみると同じような境遇だった。

ファースト・ワイフ・クラブ [DVD]
劇場パンフレットから

 ダイアン・キートン演じるアニーは、夫と別居中で、女の子はゲイ。
夫は彼女がカウンセリングを受けていた精神科の女医と結婚したくて、離婚宣言。
ベッド・ミドラー演じるブレンダは、夫が若い愛人のもとに走り、子供との二人暮らし。

 かつてはオスカーを取ったこともある女優のエリースは、自分が映画のプロデューサーまで育て上げた夫のビルにふられる。
ビルは若い女性を主役にキャスティングし、その女性に心を奪われている。
そのエリースは、ゴールディ・ホーンが演じている。いずれも達者な役者たちである。

 一度はカップルになった女性が、男性の裏切りとも思える仕打ちに怒り、復讐のために立ち上がる。
彼女たちの行動の動機は、男性の不誠実な行動をただすためであっても、クラブ設立の目的は復讐ではない。
虐げられた女性が立ち直るためのクラブであって、個人的な恨みをはらすクラブではない。
途中に女性たちの喧嘩を挟んだりして、映画は女性の友情を強調する。
クラブは、死んだシンシアにちなんでシンシア財団と名乗る。

 前夫への挑戦やお金を巻き上げたり、そのあたりはどうでも良い。
映画としては、話の展開に山がなく平凡で、芸達者な役者をそろえているが、盛り上がりに欠ける。
前半の話が、最後にどう決着するのかと思っていると、大した山場もなくそのまま終わってしまう。
原作は面白いらしいが、脚本に問題がある。

 アメリカではこの映画が受けている。
その意味が考えさせられる。
つまり、カップルを解消させられた女性が、解消原因やその顛末に満足がいかず、欲求不満になっている状況がある。
女性が台頭したといっても、離婚が多いといっても、女性の立場はまだまだ不利である。
女性は自立したいが、離婚を望んでいるわけではない。
とりわけ、男性の出世をバックアップしたうえに、関係が切れてしまった女性には、大いに不満が残る。
この映画は、そうした女性の気持ちにぴったりしたのであろう。

 出世した男性にとって、糟糠の妻より魅力的な女性はたくさん登場する。
出世すればするほど、魅力ある人間は身のまわりに増える。
だから男性は新たな女性に目移りがし、離婚に至る。
それは判る。
しかし、かつての生活を支えた女性が、捨てられることは許せない。
だからこの映画である。
我が国では、中年女性の職場がまだ少ないので、彼女たちは離婚に踏み切れない。
そのため我が国では、この映画はリアリティがなく受けないだろう。

 ああしろ、こうしろと言わないで欲しい。
私たちだって自分のことは自分で決めたいのだから、と映画のなかで何度も歌われる歌が象徴的である。
自立しつつある女性たちが、支配したがる男性と平等の関係を作ろうとしたい気持ちがよく伝わってくる。
決して男性を貶めたいわけではない。
壊れてしまった愛情を、繕うつもりはない。
とにかく女性も自由にやりたいのだ。
その手助けが欲しい、と映画は言う。

 グロリア・スタイナムやイヴァナ・トランプが登場し、男性に対して厳しいこの映画の真意は、けっして男性非難ではない。
ヒュー・ウィルソン監督が撮ったこの映画は、女性の自立をどうするか、その社会的な背景がまだ整わないなかでの、女性の愚痴である。

 舞台になったのが、金持ち女性のばかりだったのが気になるが、我が国でも4大卒の女性が専業主婦をやっているのだから、アジア諸国から見れば同じことかも知れない。
しかしながら、4年の大学を卒業という贅沢な教育を受けて、家事に専念とは何という無駄だろう。

1996年のアメリカ映画


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